アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

mot annual 2005 Life actually「愛と孤独、そして笑い」。2005.1.15~3.21。東京都現代美術館。

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「愛と孤独、そして笑い」。2005.1.15~3.21。東京都現代美術館

2005年2月2日。

  ここ数年、続いている MOTアニュアル というシリーズ。

  行くたびに、はずれはなく、好感度が高い。

  今回は、女性アーティストばかり、10人ということで、女性という括りは、安直では、という気持ちもあったが、ガンの治療をした母の検査の結果がよく、そして次の検査までわりと時間があって、それで、あまり考えないですむような時を選んで行った。

 

  なんだか湿度の高さは、感じたように思えたのだけど、それは年齢が高めの人ほど、その要素が多く、それは、40代くらいまでで、それから下の世代になると、そういう共通項は少なくなるようにも思えた。

 

 たとえば、イチハラヒロコ(1963年生まれ)、岡田裕子(1970年生まれ)、澤田知子(1977年生まれ)の作品を見ていると、共通項よりも、違いの方が際立っていて、そして、湿り気みたいなものは表立っては感じられなくなってきている。

 

 一緒に行った妻は、イケムラレイコ(1951年生まれ)がやっぱりいい、と言っていた。

 わたしも、この人のはずっといいな、と思っているが、最近の作品の方が、人物像がくっきりとしてきて、以前のほうがいいような気になるのは、鑑賞者のエゴみたいなものだと思う。立体は最近のものでも、目に手をつっこんでいるような作品があって、それは、素直に気持ちに届く気もした。

 

 後は、タンスの引き出しに、秘密を書いたもの。

 それは、作品として、装飾というか何か周りを飾るというか、そういう工夫もしているが、何しろ秘密そのものが魅力的に思えた。引き出しを開けないと見られない、というのも、その作業が、また見る側の気持ちに影響を与えて、その作品の特別感のようなものが増すように感じる。そういえば、タンスの引き出しって、妙なものが入っていたりするし、と思いつつ、すごく面白かった。それは、秘密を覗き見る、といった自分の中の暗い感覚を刺激されているのだろうけど、戦争体験者のおじいさんが、中国での物凄く残虐な写真を隠し持っていたりとか、サラリーマンと言っているが、実はお父さんはやくざだ、とか。

 これは、嶋田美子(1959年生まれ)の作品で、パンフレットを見て、この人の作品を、他の場所でも見ているはずなのを知った。

 

 岡田裕子(1970年生まれ)の作品。会田誠の配偶者、という認識が強いのは、本人には失礼だと思うが、どうしても、そんな見方をしてしまう。

 男が妊娠する。と作品があり、その映像は、医者が難しいことをしゃべっているのが音声として出ていないので、それが残念だったが、主婦のいらだちを視覚化したような「シンギン イン ザ レイン」は、主婦が狂ったように踊りだし、最後はその持っているビニール傘で腹を刺すというビデオ作品で、やはり、気持ちの不意をつかれ、微妙な混乱をする。

 

 溝口彰子O.I.C(1962年生まれ)この人の作品は、何人かで組んで、作っているらしい。『作品の「秘密」や「真実の意味」がアーティスト個人という「中心」に宿るのだ、とする近代主義本質主義から離れるにはどうすればいいか?』という言葉が、説明にある。セックスの時の再現をしているようにも思えるテクノロジーのでかい作品。何だかすごいような気もする。「私の愛する男は私の中で射精する。精液が体の中を流れて行く。いつもこの瞬間、一番、生きているのだと思う」というタイトル。そういうパターン化された見方を、ずらすといったような意図がありそうだったが、分からないままだった。

 

 澤田知子の作品は、自分が300通りになって、証明写真に写っている。実は、そのことで、その本人に起った気持ちの変化みたいなものが、もっと面白いのかもしれない、とは思った。

 

 イチハラヒロコの作品は、その完成したものだけでなく、ノートとかメモとかも立体になっていて、大学などの講師に売り込みの記録や、製作途中の悩み方などもあって、それが、妙にリアルだった。

 

  出光真子(1940年生まれ)、オノデラユキ(1962年生まれ)、鴻池朋子(1960年生まれ)、綿引展子(1958年生まれ)の作品もあった。

 全体では、時間をかけて見られて、それが700円で楽しめて、気持ちが確かに、変わっていた。母の病気のことなどを少し忘れて、アートに集中できた。それは作品の力だと思った。

 

『既存のシステムが、あらゆる面で行き詰まり、暗雲が漂っている現代日本であるからこそ、こうした表現は生まれ、こうした表現の持つ重要性も高まっていると思われます。この閉塞感に満ちた現代日本で、しかしいかにあきらめないで、維持し続けるか。それは創り手の問題である以上に、この現代に生きる私たち全体に問われるものなのでしょう。日々の平凡な日常から生まれた非凡な作品、「愛と孤独、そして笑い」に満ちた延々に続く問いを、アーティストだけでなく、私たちが、維持し続けること。それがこの展覧会の目的です』。  (チラシより)

 

 

(2005年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.mot-art-museum.jp