1999年3月17日。
ここに来るのは2度目。失礼だけど、明らかに予算が足りなそうなチラシだった。それでも、少ない色数とそれほど質も高くない紙なのに、シャープでカッコよく見せているところに、すごく知恵を感じる。それに「コンセプチュアリズム」という言葉に引かれて、行った。デュシャンを知って以来、こういう言葉に惹かれるようになった。
思ったよりも広い会場。7人の作家に、それぞれ大きいスペースが割り当てられている。
ナカイメグミ。身の回りにあるものを使った小さなアクリルに入った虫の死体。雑誌の人生相談への勝手な解答。決して明るい動機で作られたとは思えないのに、しかし何か前へ進む感覚が伝わってくる。
スズキヒロシ。黄色いプラスチックの板がドアの下に意味ありげにあり、その部屋には「1回に一人ずつ、入ってください」と書いてある。その中へ、一人で入る。何もないガランとした会議室みたいな広さ。すみに少し開けたドアがあり、そこにただ蛍光灯で照らされた黄色い小さなスペースがあるだけだった。あとは何もない。何かあるんじゃないか。と構えた心に足払いをされた感じで、嬉しかった。
この2人の作品が、特に印象に残った。
3月22日に、シンポジウムがあった。一人で行った。ゲストキュレーター市原研太郎。エンターテイメントに走ればいいというものでもなく⋯⋯といった発言があった。全体では、自分にとっては理解が及ばない話も多かった。「コンセプチャリズムの「新たな展開」の新しさについては、分からないままだった。3時間に及んだシンポジウムの最後、質問が他にないのを見てから、気になった2人、スズキとナカイに聞いた。
そうしたら、作品制作の動機は、まず自分がこうしたい。を優先させているのが分った。今の自分にとっては、そういうことを確認できたのは、プラスだった。ナカイのやり方をネガポジなどと表現するのも知った。
ここのところ、ずっと頭がぼんやりしていた。
まだ、先もまったく見えなかった。母親の症状がどうなるのか分からなくて、何しろ、実家にいて、様子を見ていくしかなかった。
このシンポジウムが終って、また同じ横浜市内の実家に帰った。
(1999年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。