アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「5ルームス 感覚を開く5つの個展」。2016.12.19~2017.1.21。神奈川県民ホールギャラリー。

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「5ルームス 感覚を開く5つの個展」。2016.12.19~2017.1.21。神奈川県民ホールギャラリー。

 

2017年1月12日。

 

 去年は鴻池朋子のおおがかりな個展をしたし、高校の美術の先生だった人の個展も見たし、横浜トリエンナーレで、小沢剛の作品が展示された場所でもあって、けっこう思い切った刺激も受ける企画をすることがあって、もしかしたら、優れた学芸員がいるのかもしれない、などと思うこともがあるが、多くは年末から1月末という集客には難しそうな時期に行われている印象もある。

 

 1年の最初は、このギャラリーの作品を見ることで始めることがあって、今年もそういうことになり、妻と一緒に出かけ、この前買った新しい靴もおろした。天気はいいが、気温は低い。港に近い駅で、歩いていると、空が広くて、その先はさらに広いせいか、独特の解放感みたいなものがあって、それなのに、県民ホールは、吹きぬけも高くまである建物なのに、古いだけでなく、ところどころ少し閉塞感と暗さがあって、今日も人が少なかった。

 

 最初の部屋。大きなライトボックスに置いてある立体。紙を固めに形づくって並べてあると思ったが、でも違和感はあったので、スタッフの方に聞いたら、磁器です。と笑顔で教えてくれて、心地よい驚きにつつまれ、こんな紙のように薄い磁器をやいて、そして、並べていることに、その労力とか、努力とかが、自分は詳しく知らない癖にすけて見えるような気がして、壊れそうな作品なのに、圧倒される気配があるように思えた。出和絵理の作品。1983年生まれだから、33歳。

 

 そして、次の部屋は、石や枝と漆を組み合わせた、茶の湯のような、千利休のような、研ぎすまされていて、洗練もあって、かっこいい、と思える作品が並んでいる。この人も若い。1983年生まれ。染谷聡。この人のエッセイみたいなものも載っていて、そこには縄文時代か何かの丸い固まりの話を書いていた。それは、うるしのボールで、中には最初糸があったが長年の間になくなり、その糸かなにかの空洞をかかえた立体が残っている、という内容で、うるしは寿命が長いという言い方もしていて、新鮮な話だった。

 

 次の部屋は、不思議な味わいと奥行きのある大きめの色とりどりで、質感もドットが並んでいるような紙?が暗闇でスポットライトをあびている。小野耕石。1979年生まれ。スタッフに聞いたら、100回ほど、シルクスクリーンの技法で塗り重ねていて、そういう膨大な過程が薄い作品に奥行きとか微妙さを加えているのかもしれない、とも思った。

 

 齋藤陽道。写真。時々、ぐ、とか、う、と思える作品が入り、それも1枚の写真から、次の作品に少しずつ移っていくことも含めての写真作品になっていて、暗闇の中で、しばらく見ていた。すいているから、座って、ゆったりと見られるのはありがたい。

 

 最後の作品は、一番広い場所を使って、打ち上げられた木造のぼろぼろの船のようなオブジェがあった。すごく大きくて、暗闇にあると、不気味さも確かにあって、下は砂かと思ったら、不要になったビニール袋や廃油から作った石けんの粉らしいが、知らないうちに踏んでいたらしく、階段を上ったら、スタッフの方が、調味料入れでコショウをまくように、床にまいて、修正をしていた。上には大きなせっけんらしきものがあって、そこにたまに水滴がたれてくるから、油断が出来ない作品もあった。丸山純子。

 

 充実した時間が持てた。

 カタログは、5色のうち、1色を選べるという、これも意欲的な企画だった。

 

 

(2017年の時の記録です。多少の修正・加筆をしています)。

 

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