アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

ヨコハマトリエンナーレ2011。2011.8.6~11.6。横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域。

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ヨコハマトリエンナーレ2011。2011.8.6~11.6。横浜美術館日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域。

 

2011年9月6日。

 義母をショートステイに預けているので、妻と昼頃からトリエンナーレにでかけられる。今日も妻は、義母を午前中に見に行ってくれて、考えたら、預けているのに、1日に1回は見に行ってもらっているのだから、負担が変らなくて大変だとも思うが、でも、行ってもらっているから、安心して出かけられるのはありがたい。

 

 横浜美術館とバンクアートがメインの2会場で、最初の2001年には桜木町から、かなり華やかにトリエンナーレを主張するようなものがたくさんあったのと比べると、最寄りのみなとみらい駅も普段通りのようだったが、横浜美術館の前にウーゴ・ロンディノーネの大きな顔の像が並んでいる。それは写真とか映像で見ていたのと微妙に違って、けっこうプラスチックのような素材を使っているのに、手の作業を残すような作り方をしているせいか、存在感が増しているようで、それを前に妻も私も、どの顔が好きかを選んで写真を撮った。今回は、中も、けっこう写真を撮っていい作品が多いと聞いて、それは何だか入る前からうれしかった。

 

 美術館に入ると、一人が着ている衣服をすべてほどき一本の糸のようにして一つに巻き上げた作品が並んでいて、それが渦巻き状に並んでいて、かなりきれいなものもあったり、ボタンやファスナーが飛び出ていたりと、かなり面白い作品は、イン・シウジェンが作ったものだった。ぼんのうと同じ108人分あるというのをガイドブックで知った。

 

 さらにロビーには透明なボックスの中に電話があって、そこに少し迷いながら進むと、それはオノ・ヨーコからかかってくるかしれない電話だった。その中で若い人達とも少し待ったが、かかってこず、どうやら、4日前にはかかってきたらしいので、という事だった。でも、実際にかかってきたら、何をしゃべればいいんだろう。

 

 学生割引が効いて、うれしかったし、ボランティアと思われるスタッフの人達が感じがよくて、感心もし、中に入っていって、いつもよりもたくさんの作品を並べてあるように見えた横浜美術館を2時間近くかけて見た。

 

 砂をはき続ける白い服を着た女性を延々と映し続ける映像が、撮影や編集がうまくて人をあきさせないことに感心し、ダミアン・ハーストは何千匹のチョウの羽を使った作品を並べて、なんだかイメージ通りに思えた。池田学は、手間ひまが形になったような作品で、本当に、かけた時間が何かを伝えるということも見たような気もした。岩崎貴宏は、ビクセン(子供の頃のある種のあこがれ)の望遠鏡でのぞくと初めて気がつく作品で、ものすごく小さい針金やほこりを使ってタワーや横浜コスモワールドの観覧車を作っているのは、気持ちが少しわくわくした。マイク・ケリーが、スーパーマンの故郷の都市を作っていたりするのも、似たような気持ちになれた。

 

 床に敷き詰められたキラキラしているのはものすごくたくさんのイミテーションダイヤで、その中に一つだけ本物のダイヤがあるという作品は、スタッフが近づかないでください、と繰り返すのも分かるような気がして、少し前に来た子供の団体で、その中の一人がその中に踏み込んだらしく、小さめの足跡を残していた。

 

 薄久保香は、写真のようで、でもアニメ寄りの軽さもあって、少し日常とは遠いようで、日常の中にいるような少年がいる風景を描いていて、いいな、と思っていたら、妻は、これが見たかった、としばらくたたずんでいた。

 

 かなり楽しかったが、おみやげとして買うものはなく、ガイドブックだけ買って、次の会場へのバスを待っていたら、もしかしたら次は乗れないかも、ということを聞き、微妙に焦っていたら、妻と一緒に、ぎりぎりに乗れて、次のバンクアートに向かえた。

 

 天井から突き出した木の根っこは、2階、3階と行くうちに、さらに幹となり、樹木の上部となっていて、面白かった。ピーター・コフィンの3Dのフルーツの映像は、妻が気に入っていた。山下麻衣+小林直人の作品は、砂浜から砂鉄を集めて、スプーンを作る、というもので、それは会場には砂の山の上にスプーンが立っているだけど、ビデオでその行程を見ると、なんだか、すごく納得がいって、ふわっと面白かった。

 

 それでも、バンクアートの作品の中で、一番、印象が強く、あとになっても感心が残ったのは、クリスチャン・マークレーの作品だった。ものすごく大量の映画の映像から、時間を表す映像を集め、それで24時間を1分ごとに作っている、という気の遠くなるような作品だった。その時刻は実際の時間と完全にシンクロしているから、今、何時だ、というのも分かるが、何しろ、その映像がただ時刻を表すものを切り取る、というのではなく、その映像の、そこにこめられているものまで伝えようとするような編集に思え、ただばらばらにした感じがしないところがすごく感心した。これまで、こういう作品を作ろうと思った人は何十人もいただろうけど、その手間ひまを惜しまずに、これだけきちんと作ったのだから、すごいと思って、これが、今年のヴェネティア・ビエンナーレの金獅子賞をとったというのは、すごく納得がいった。

 

  結局、それから、この中でお茶をして、午後6時近くになった。

  まだ、他の会場の分のチケットもあるけど、行けなかった。次には行きたい、と思った。前回のトリエンナーレは、もう終わりか、というような気配だったけど、今回は楽しかった。この時期は、大学生がまだ休み、ということもあるかもしれないが、若いカップルが多かった。

 

(2011年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

ヨコハマトリエンナーレ2011

https://www.yokohamatriennale.jp/archive/2011/