2009年9月14日。
銀座で降りて、エルメスのビルに向かう。何度か来ているのに、忘れていて、その出口に来たとたん、大勢の人を拒否するような細いエレベーターとちょっと暗い照明を思い出す。1階で、体の大きい警備の人にギャラリーの事を聞くと、店内を入って奥のエレベーターと言われる。昔は直接、エレベーターに乗れたような記憶があるが、なんだか香水の香りが漂う店内をただ恐縮して通り過ぎ、奥のエレベーターに乗ると、途中で降りる人が3人くらいいて、それでエレベーターは人で、いっぱいのまま静かに上に上がり、途中から妻と二人になり、8階に着く。
ギャラリーは天井が高い。
おそらく大きいシカのはくせいを透明の球体で覆ってある。それは、「無数のCellの中に取り込まれて解体され、」と解説に書いてあるが、解体みたいな事は思わず、なんだか面白い、と思っていた。実際に制作したら大変とは思うけど、近くで見ると、どうやって丸い球体を完全に囲むように貼付けるのだろう?と技術的な興味がわいて、すごいとも思う。
作品として見ると、「あ、名和晃平だ」とすぐに分るような特徴で、考えたらけっこうシンプルな方法で、どうして今まで誰もやらなかったのだろう?と思えてもくるが、でも、あれこれ見ていると、少し不思議な気持ちになる。まだ30代前半だから、若い作家のはずなのに、信頼感とか安定感とか、そういう言葉が最初に見た時からあって、それは何年かたっても変わらない。
その隣に、いろいろなものをなんだか柔らかい粘土みたいなものでおおった作品が並んでいる。ミッキーのぬいぐるみらしきものから、葬式関連のものや、ダビデ像らしきものや、最後は観音像まで、小さいものから大きいものまでまっすぐに台の上に並んでいる。ひとつひとつ、カビが生えたような感じだけど、実験でなんだか樹氷みたいなものを作る感じを思い出し、この人、実験の人ではないだろうか?などと思った。
3つめの作品は、シリコーンオイルを発光させ、グリッド状に泡が発生しているから、泡が出来続けているのに、壊れ続けている、という変な形がずっと並んでいる。暗い中で見たかった、とか、もっとプールみたいな大きい作品が見たかった、などと勝手な事を思う。
だけど、なんだか面白かった。
間違って、お金をたくさん持つような事があって、ブランドものを買わなくてはいけないような場面になったら、エルメスを買うことにした、などと妻と話したが、20代や30代くらいでは冗談になっても、それを過ぎたら、自分でもあまり笑えないことに気づく。
またエレベーターで降りて、店内を通ると、外へ出るタイミングでドアボーイの人がドアを開けてくれる。なんだか申しわけない、と思った。
リーフレットなども含めて、全体的な構成は、とてもクール(こういう言葉が似合うと思った)だった。
(2009年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
メゾンエルメス フォーラム
https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/090619/