アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「Death Line」。2017.3.4~3.17。@Dust Bunny(大塚)。

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「Death Line」。2017.3.4~3.17。@Dust Bunny(大塚)。

 

2017年3月12日。

 カオスラウンジ五反田アトリエでの「新芸術校 成果展」を見て、そこで、作品を見て、その力プラス、作家の弓指寛治氏の話があって、それにも、とても力があったので、見ようとは思っていた。トークショーが、それも黒瀬陽平氏と、この3人の作家の方がトークをすると知って行きたくなった。少し早めに出かけて、展示を見てから、と思っていたら、時間がギリギリになったりもしていて、だけど、展示を見た。

 

 一周を回って、見てみる。この展覧会の中心でもある弓指氏は対応がとても丁寧で、そのことにも感心もしていた。鑑賞2周目で、丁寧な解説を聞いて、最初の作品は、事故の加害者でもある小林A という方の作品で、何枚ものあいまいな似顔絵みたいな顔の絵は、被害者で亡くなった顔を描いた、ということだったし、もう1枚の大きい絵は、被害者の兄の目を中心としたもので、それは、事故後、その被害者の方の火葬場に行ったけど、事故の過失はなかったので、あやまってはダメと弁護士に言われていて、いろいろと話をしたあと、あーそうですか、とだけ言われた目があって、それが強烈に残っていて、だけど、それがとても辛かったというのだけは覚えていて、ということだった。よくこれを作品として残してくれたんだ、というような感謝というか、それは、そのあとも2人の作品にも似た気持ちになり、ある意味、厳粛という感情になった。

 小林Aは、ずっとこの事故のことも黙っていて、というか、黙らざるをえないような状況にいて、その抑圧が作品に出ていて、といったことらしいのだけど、それが、今回の作品製作のためにとれてきた、というか、そんな事も含めて、それはすごいことではないか、と思えた。

 

 ALI-KAさんの作品は、知らんがな、というような言葉を作品化していて、それは、父親が歩いている時にはねられて、という最期だと、かわいそうな人、という一色になってしまって、そんなことは関係なく、もっと破天荒な人だったりしたのに、それがかわいそうな人、で上書きされるようなのが、すごく嫌だった、というようなことだった。

 

 展示の中には遺品もあった。それは音楽療法士をやられていた弓指氏の母親の遺品で、壁にはられているのは、その母親の仕事の時に使っていた歌詞の紙だという。それから、事故死した父親が、その日たどった道を、歩いて映像化したALI-KA氏の作品があったり、弓指氏の作品でもあるクルマのドアもあり、かなりの重さもあるものの、当事者性というものや、理不尽さを考えさせるような力が、作品にあるのは事実だった。それで、トークショーにも参加させてもらった。

 

 最後に、ただの観客でありながら、トークショーも含めて、とても優れた作品であり展示だと思ったので、つい感想を伝えたくなった。そのあとで、近くの方が興味を示してくれたが、家に帰って来て、やはり作者の方々に失礼というか、分かったようなことを言ってしまったのではないか、と後悔もしたが、今回のことをかみしめて、次につなげようとも思った。黒瀬陽平氏が、何年か前にトークショーで見たときは、かなり弱っているように見えた頃があって、その理由が分かった。とても辛い時期だったらしく、そのことを正直に伝えてくれたことで、有り難く思ったし、今日のトークショーでは、とても鋭い見方も提示してくれて、以前は、本当に調子が悪かったことがわかった。

 

 

(2017年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.maturinoatoni.jp