アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「49」展。2019.2.16~2.24。@salon 文家(立川)。

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「49」展。2019.2.16~2.24。@salon 文家(立川)。

2019年2月23日。

 人が死ぬこと、死んでしまったこと、死んだあとのこと。介護をしていた義母を亡くし、今の自分がその状況の中にいるせいか、そのこと以外が考えられないのか。そんなテーマの映画とか、アートとかが気になって見に行ってしまう。

 

 人に会って、何かしら話すのがちょっと苦痛な時もあったし、そして、今回は義母の四十九日の法要は行わないものの、ちょうど、そこにあたるのは2月の上旬で、この展覧会を行う動機が、実際に今年に入って、関係者の、どなたかが亡くなって、その四十九日にあわせて、展覧会をおこない、さらには、不動産のことも関係してくる、というのと、あとは先月見に行って、思った以上によかった「しんかぞく」も作品を出すというので、行こうと思っていた。

 

 駅を降りて、知らない道を歩く。駅前は繁華街みたいだったが、急に細道になり、周りはラブホテルが多くなり、その一角に急にあった。入場料はないというが、香典ということなので、御霊前か、御仏前か考えて、確かリアルな四十九日は先週終わったはずだったから、御仏前のつつみを買い、知らない人とはいえ、香典だから、安いけど3000円を入れた。

 

 入口で、紙をもらって、どうやらここは1階で、2階に「しんかぞく」の展示があるようで、そこは、スタッフのどなたかと一緒でないと、オートロックがあるので、といわれて、1階を見て、映像作品はインドに行って、座って座禅?を組んで、という記録だったが、道行く人が、目をつむっていたらカメラを盗られるぞ、みたいなことを何度か言われていて、そして、他の作品は、暗いし正直、よくわからなくて、2階に案内してもらった。

 

 人が亡くなってから、四十九日まで、何日かごとに段階があるようで、それに沿った展示が実際のマンションの4部屋に分けて、展示してあるようだった。最初の部屋。202。開けたら誰もいない。紙に個人的な亡くなった方への言葉があって、それはまったく知らない人であるのだけど、胸に迫るものがあったのは、自分も、2カ月ほど前に、家族をなくしていたからで、たんざくに、義母への感謝みたいな言葉をかいて、つるした。途中で、主催者らしき人が、6時からライブ法要があります、よかったら、と言われたが、ライブなので、何となく気が引けたし、そこへ行って、また戻ってきたら、その時は気持ちが違ってしまうようで、このまま見ることにする。

 

 203。しんかぞく。バスルームの中の絵画。他の作品も床に置いてあり、部屋のことは考えるが、和田唯奈の作品は、きらきらしていて、あ、とすぐにわかる。映像は、小さな画面に、絵を重ねて、賽の河原の石つみみたいなことを、たぶん、近所の公園みたいなところで行っているのを記録していた。一人で部屋にいて、静かな気持ちにはなれた。

 

 205。「日替わり閻魔ちゃんBAR」という文字。なんだろう。お酒飲めないのに、と思い、ドアをあけたら、誰もいなくて、今日はいない日かと思ったら、視界の横から、「閻魔ちゃんです」とチャイナドレスを来た若い女性があらわれた。あ、と思って、あいさつもして、説明をしてくれた。

 

 「ここに来た人は死人ということで、それも35日?で、閻魔様に裁きを受けて、天国か地獄か決まるのだけど、その裁きをうけるのに、投げ銭がいります」と言われ、周囲の作品も力が入っていたので、1000円を渡したら、「こんなに、ありがとうございます」「あ、作品も資金かかっていそうなので」と答えたら、「あ、これは違う作家さんで、わたしは、さっきの部屋のトイレのところの」というので、ふと小さいけど、一つ目のインパクトがある作品を思い出し、「先月、しんかぞく展を見に行って、よかったので、今回も来ました」と伝えたら、名刺をくれた。「星ヲ輪ユメカ」。あいさつもした。

 

 墓まで持って来たウソはありますか。それから本当のことはありますか。2つの質問からはじまる。

 

 さらには「奥さんは大事にしてますか?」と聞かれ、普通に「わりと変わらず…ずっと好きですけど」と答え、さらに聞かれたので「結婚して25年くらいたちます」と言ったら、「なんだか素敵ですね」と続けてくれる。

 

 そのあと、さらにいろいろ聞かれたので、介護をしていた話もしたせいか、そんなに立派な介護者ではない、と伝えたのに、なんだか天国行きに決まったようだった。ありがたい。

 

 来生の希望を聞かれ、「その次は地獄でもいいので、モテたいです」と、それから、「ずっと貧乏だったので、次はそういうのはなくしたい」と言ったら、すこし考えて、「イケメンの石油王」と告げられた。すごい対応力だと思った。なんだか楽しかった。

 

 それから、「どんな人生でしたか、たとえば人の顔色もうかがってきたりは、どうですか?」といったことを問われ、結構真剣に振り返っていた。「いろいろな選択をするときに、自分の気持ちに聞いてきたので、後悔はないです」と答えて、そのことで、自分のこれまでもそんなに悪くなかったのでは、とここまでひたすら無力感に覆われていた気持ちが少し明るくなり、今度もアートに救われた気がした。最後の部屋は、部屋自体を生かしたインスタレーションだった。403は、入居希望者だけが入れる、というシステム。

 

 それから、1階に戻り、今回の主催者の新芸術校のOBで40代後半で不動産屋をしているという男性と、黒瀬陽平氏がトーク。黒瀬氏が、今の日本の状況は現代アートの関係者は、趣味でしかない。どうすればいいのか、という点には、たとえばカウスラウンジでは、今までだとお金が発生しないところ、ワークショップやトークなどもお金にしている、といった話もしていた。

 

 行って、よかった。気持ちが少し生きる方向へ変わった。

 

(2019年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

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「しんかぞくのお家」

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