2007年10月5日。
バスに乗る。
バス停に慌てた気持ちで行ったら、高速バスの停留所には、まだ誰もいない。あと出発まで20分。大丸で弁当も買っていた。それを車内で食べて、という万全の体勢と自分たちでは思っていて、ただ、この前、このバスに乗って水戸へ行った時は、母が生きていた…まだ半年たってなかった…かなり下り坂の体調の時で、あとから考えたら、あと2週間の命で、それでも病院に行くのを休んで、水戸に出かけていたのだけれど、ものすごく重い気持ちの時だった。
比べるのもおかしいけれど、今は、バチが当たるんじゃないか?と思うくらい、気持ちが軽い。天気予報よりも天気がよく、旅行気分って、こういうものだと思い出す、というよりも結婚以来、これだけ気持ちが軽かったのは、初めて、というより、結婚して初めて旅行らしい旅行に行った時は、すでに介護生活が始まっていたのだった。
高速バスの受付で、ツインチケットを3500円で買う。一人、本来は2080円だから、かなり安くて嬉しい。ただ、どうしてもカップルチケットとか、ダブルチケットやペアチケットというような覚えかたになってしまっていた。ただ、こういうサービスは以前はなかったはずだから、ホントに乗客が少なくなっていると思い、それは景気がよくなってきて、安い、高速バスが、また利用が減っているのかもしれなかった。
妻と二人で座った。真ん中より少し後ろ。いい場所に座れたと思った。気がついたら、周囲の人が気になって、席を変わった。弁当を食べた。旅の気分だった。少し寝た。妻に買った携帯の首のところにする枕が役に立った。ほぼ予定通りの午後1時40分頃にバス停に着いた。東京駅のバス停から、同じ場所に行くかも、という気配だった女性の2人組も、そこで降りた。
ひびのこづえ。
たしひきのあんばい。
荷物をあずけ、階段をあがり、光がいいかんじでさしこむ会場に入ったら、そのすぐあとに「市町村◯◯○」と書いたプレートを胸にして、行政の視察というような雰囲気の何十人かの団体が来て、嫌だなー、と思っていたら、流すように見て、そのまま去っていった。
服。家具。パフォーマンスの映像。絵。
何となくさらっとした印象だった。よく出来ていた。木に着せたというドレスは大きく、その下の大きいカーペットで座っていると気持ちもよかった。展示品は、ほとんどすべてが売れていた。
最後の部屋は、天使の白だった。
さらに、次の部屋は、商品としてハンカチなどを売っていた。妻ははりきって、買っていた。1万円札を渡し、6千円分の買い物をした。
コーヒーを飲んだ。カフォオレ大福というものも初めて食べた。午後4時過ぎ。ゆっくり出来た。そして、まだ余裕があった。
「水戸のキワマリ荘」
キワマリ荘へ行こう、と妻と話した。受付の小柄できれいな女性が、キワマリ荘のことを熱心に調べてくれて、そこから10分くらいで行けるので、歩くことにした。ガソリンスタンド、そして、コーヒー問屋を左に曲がった。高校を右に見ながら、交差点に来る。ここから迷いやすいと聞いた。インターネットでプリントアウトした地図を見る。簡単な矢印。駐車場を抜けて、人の家の道にしか思えない、石が並んでいる路地を少し奥に行ったら、あった。
出てきた人が、あ、有馬かおるだ。と思った。
ものすごく古く見える木造の一戸建て。でも、庭付き。案内されて、荷物を置いて、2階に上がる。今ではセットのような、昔はアパートでも使われていたような感じ。
3つの部屋で、展示がしてある。
2人まで、という制限。
鉄道写真が並ぶ。
暗渠…線路の下の小さなトンネルのようなアーチ状の建物(?)。その写真がばーっと無造作に並んで、時々、本人が映り込んでいる。古いものも、新しいものも映している。へんな集中力。本人の映り方の不思議な感じ。
鉄道写真も、鉄道マニアとは違う気配。3つめの部屋には、魚拓のように、どうやら暗渠にある、ビルでいえば定礎のようなものを鉛筆みたいなもので移しとったもの。
有馬氏にいろいろ聞いた。
この作者が変な人であること。
雪山にこもって、何時間も待ち、線路の音だけを頼りにシャッターをきり、ダメなら、また何時間も待ったり、ということをしているらしいが、でも、暗渠の写真も、それを作ったであろう職人さんの技術の話ばかりをするらしい。そして、自分が映り込んでいるのは、その暗渠の大きさを分かってもらうためらしい。つまり、タバコの箱の代わりということだった。
ああ、それで、鉄道写真にある自慢のにおいがスゴく少なくて、それで、何だか違うと感じたんですね。と、感心する。
犬山のこと。キワマリ荘のこと。今回、人がたくさん来て、ここはプライベート空間でもあるので、同棲している彼女がノイローゼになってしまったこと。この前、地図作りを仕事にしている人が着て、すごく熱心に見ていって、アフリカの地図を作りたい。協力してくれないか。10億かかるんだ。というような話をして、隣にいた奥さんがホレなおした、というようになったのが分かった、というようなこと。
20分くらい話した。
アメを出してくれた。
すごく、楽しかった。
それから、カフェ・リンに行き、夕食を食べた。おいしかった。
義母はショートステイに入ってもらっているし、もう母はいないし、バチがあたるほど、気持ちが楽だった。ちゃんとしよう。こんなに気持ちが楽ならば、ホントにちゃんとしよう、と思った。
(2007年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
「水戸芸術館 現代美術ギャラリー」
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/
「ひびのこづえ ハンカチ」