2016年6月8日。
豊島(てしま)美術館から歩く事にした。広く、日があたって、夏休みのプールの帰りのような感じ。鳥の声ばかりが聞こえてきて、静かで、だけど、次の目標まで約30分かかる、と豊島美術館のスタッフの方から教えてもらったので、覚悟は出来ていたものの、行きにバスに乗っていた道のりの印象よりも、さらにやや上り坂が続くので、気温も高いし、ややしんどい。
水分はかなり持っているので、それをこまめにとりつつも、次の目標まで時間があるし、途中に島レストランがあって、入り口に来たら、中に入って何かしらを食べないと入れなさそうなので、時間もないし、あきらめて、そこからいくつかの展示があるはずなので、あちこちに曲がって歩いたものの、今回はイベントの期間ではないので、やっていない場所ばかりが続く。
その歩いている途中で、豊島美術館のカフェで、自撮りをしていた若い女性が自転車に乗っているタイミングとよく合った。そこからさらに歩いていくと、目的地が見えてきた。ガイドブックを借りてきて読んで、妻が行きたい場所、ということで、その写真と同じ光景が見えた。
わき水がある神社。水がわいたから、聖なる場所になったのか分らないけど、全体がしっとりとしていて、そして、この島のあちこちに見えたようにコケの色がしっかりと緑が強くて勢いがあって、その神社の敷地内に青木野枝の作品が溶け込んでいて、目黒で見た作品と同様な構造だけど、さらにサビがある金属で、円が組み合わさっていて、「空の粒子/唐櫃」という名前がついている。
そばで見ても、少し離れてみても、最初から、その場所にあるような作品に見える。清水をくもうと思ったら、その勢いが思った以上にとても強くて、もっているおみやげの紙袋に飛び散らせてしまい、妻に軽くあきれられる。不揃いの石段を上って、その神社にお参りをする。そこから振り返ったら海が見えた。海に行く人のための神社かもしれない。かなりいい景色といっていいのかもしれない。
バスが来るまではまだ時間がある。待ち合わせの小さい小屋の中に作業をする男性がいる。わたしよりも、妻が積極的に話しかける。その小屋の裏に碑があって、桜が植わっている。その話をしたそうだけど、その碑は、近所の女性のものだった。100歳になる母親の世話をしていたが、その女性はみんなに好かれていて、だから、亡くなってから、その人をしのんで桜が植えられた、という話だった。なんだかすごい話だった。その碑は、2年くらい前に立てられたものだった。妻がその話を聞いて、小屋の後ろに見に行った。そこから海がよく見えた。そんなことがあるんだと思った。
バスが来た。乗ってから、港近くまで行く。振り出しに戻った感じ。まだ1時間以上ある。乗船券が買えるのは、30分前だった。そこから、また歩く。一つは、また展示していない。他も見られないと思って、確実に開いている豊島横尾館に行く。
「豊島横尾館ガイド」
大きめの一軒家。赤いガラスをうまく使って、それだけなのに、異界という感じがよく出ていて、中にある作品がよけいに印象深く見える。中の庭は、池があるが、その周りにある石がところどころ赤く塗られていて、それだけで、この世じゃない感じがする。トイレも、鏡がゆがんでいるようなところで、それだけで、とても違う世界、という印象が伝わってくる。
家の中の床の一部がガラスになっていて、外の池とつながっていて水面が見える。不安定感もあって、少しの恐さもあるけど、きれいにも見える。2階の狭くて暗い部屋にある作品があって、すごくいい感じに見える。塔のように高い建物があり、そこは内部に入るとずっと吹き抜けのような作りになっていて、そこは、壁一面に滝のポストカードが張り巡らされていて、その上、天井と床が鏡になっていて、どこまでも続いている。スタッフに聞いたら、それはポストカードをタイルかなにかに吹き付けている、ということだった。思った以上によかった。隅々まで計算もされていて、完成度が高くて、そんなに広くもないのに、違う世界に行った感じがあって、今日は豊島美術館と、ここで、違うけど、どちらもこの世とかあの世とかを考えたり、感じたりできた。
すぐそばのカフェのような場所で、ソフトクリームやコーヒーを食べたり飲んだりして、時間を過ごした。ソフトもコーヒーもセルフだった。屋外でゆっくりとできた。地元のラジオ放送が聞こえていて、今見ているドラマのヒロインがしゃべって、その曲が流れていた。
気持ちがいい時間だった。
船に乗って、直島に戻る。たった1日なのに、かぼちゃを見て、帰って来た感じになる。カボチャの中に入ったり、港近辺の作品をまわり、そのあとに「I♥湯」に行った。ただ、お湯に入ったが、ぜいたくな空間だった。妻は湯冷めをするかもしれないので、一人で入る。やっと来れた。
「直島銭湯 アイ・ラヴ・湯」
そのあと、ラーメン屋に入り、ラーメンを食べた。その店の常連と、スタッフと、しばらく話をしていたら時間が過ぎて、あとはコンビ二に寄って、明日の朝食を買う時間だけになっていたけど、楽しかった。
地元の人にとっては、この変化に関しては、どう思っているのだろう、などと少し考えた。ホテルの送迎バスで部屋に戻る。まだ少し明るい。部屋から海が見える。昨日、夕食を食べた館内のレストランからおにぎりと、ホテルからはミネラルウォーターが差し入れられていたので、おにぎりと、買ってきたデザートと一緒に食べて、それから、ホテル内のミュージアムに行った。外の作品を見ると、波の音が聞こえる。静かな場所だった。この夜は、昨日よりもよく眠れた。少し慣れてきたかもしれない。とても充実した1日だった。明日の支度をした。もう帰る日になった。
(2016年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
青木野枝 「Protoplasm」
「豊島美術館 写真集」