2001年9月22日。
横浜駅から歩いて7分くらい。近くには高速道路と広い国道が通り、ずーっとクルマの走行音が聞こえ続けて、それが少しすさんだ気持ちになっていくし、何だか現実感が薄くなっていく。
そこに新しいビルがあって、ポートサイド地域などと呼ばれ、その中に喫茶店みたいなのがあって、いつもすごく空いているので、寄りたいが寄れない。今回もそうだった。次の展覧会の終了時刻が迫っていたからだ。
ポートサイドギャラリーは、一面がガラスだったが、その中は全部、黒い風船で一杯になっていて、知らなければ、その中に入る気はまったくしない。
ガラスの扉をあける時も気をつけないと黒い風船が外に出てしまう。その空間のほとんど人の背の高さくらいまで、風船でいっぱいで、進むと軽い抵抗感が気持ち良く、しかも前が見えないことが妙な不安になって、おもしろく、秘密基地っぽくもあって、気持ちいい。マーティン・クリード。「作品番号268。与えられたスペース半分の空気」。
そのギャラリーの中には、デジタルプリントでタイルとかブロック塀をはっている作者や、小枝を隠したため風船をかきわけ、その床まで見て初めて発見できた須田悦弘の作品があって、分っちゃいるけど、見つけると嬉しかった。
その空間を進むと、でも体に静電気がたまり、妻は静電気、静電気、静電気を繰り返し、2人で手を合わせて、放電ばかりをやっていた。静電気がたまると、妻の髪の毛は、本当に逆立ち、おもしろいと言うと、私もそうだ、と言って、静電気と文句を言っていた。他の人がその空間に入ってくるとジョーズのように得体のしれないものが、進んでくるのだけがはっきりと分って、分っていてもぶつかるんじゃないか、という少し恐怖心が出てくる。
そして、そのギャラリーの風船の中には、受付があって、普通の顔をして何か業務をしていたが、声をかけるとさすがに照れ笑いというか、楽しそうな気配は確かにあった。
次は横浜美術館の中だ。
バスが30分も来ない。5時30分に乗ると、6時にギャラリーが閉まってしまうから、行かないと。また、ここでお茶ができなかった。
しかたがないから、歩こう。
空き地でいっぱいの、みなとみらい地区。
未来ではなく、どう見ても廃虚にしか思えず、世の中に妻と2人ぼっちになり、どうやって一緒に生きていこうかという気持ちになる。さっき見たビデオ作品に流れるリズムが、その頃になって気持ちの中に降りてきて、よけいに気持ちが重くなって、しかも夕暮れ。
美術館に着く。
ギャラリーの中。目立つのは大きなクッション。
そこに横たわると、思ったよりも沈むし、そばがらの枕のとても柔らかいものみたいだし、部分的にはジャスミンの香りがしてくるし、思った以上に見た目以上に、気持ちよかった。子供達が遊んでいる。待っているお母さんは疲れている。エルネスト・ネトの作品。他にもスペースを使った作品が主張すぎずにあったし、ここでも須田悦弘氏の小枝があった。
そういえば、トンチキハウスでは、須田氏の作品は、見つけられなかった。
おもしろかった。
午後6時少し前だった。
(2001年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
「ポートサイドギャラリー。最後の展覧会 2007年」
https://www.hamakei.com/headline/2417/