アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「渡辺篤個展 止まった部屋 動き出した家」。2014.12.7~12.28。NANJO HOUSE 。

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渡辺篤個展 止まった部屋 動き出した家」。2014.12.7~12.28。NANJO HOUSE 。

 

2014年12月16日。

 最初、誰かのツイッターで見て、ひきこもりの人の部屋の写真を当事者から募集しているアーティストがいるのを知って、そして、それを展覧会に生かすという事も知って、見ようと思ったのは、自分の今の仕事にも関係あるような気がして、というような、ある意味、ちょっと不純な理由もあった。メールで予約して、出かける。

 

 もしかしたら日曜日にサッカーをしていて、足が痛くて出かけられないかも、などと思っていて、出かけるとしても、木曜日の仕事まで1日あけて、というような事を考えて、だから、今日に行こうと思った。

 

 雨が降っている。冬の雨は寒い。このところ自分が出かけると、雨が降る確率が高い。微妙についてないという気持ちが強くなるが、他のところで運が減らなければいいな、というような思いにもなるが、また雨か、という気持ちにはなる。

 

 少し迷った。池尻大橋駅を降りて、そのそばにあるスターバックスは、おしゃれすぎて、スタバに見えなかった。少し迷い、一度とおりすぎた道を戻って、家でもあるギャラリーを見つけた。インターホンを押してしゃべったら、すぐそばにいた。誰か受付の人がいるかと思ったら、アーティスト本人だった。ホームページで写真を見た、その顔そのものだった。

 

 中に入る。部屋の真ん中に流される、というよりも、傾いた家、という感じで、コンクリートの形がある。扉にあたる部分が壊されていて、そこから中が見える。生活のこんせきがある。ホームページで、この中に約1週間いて、そして、自力で出て来た、という事らしい。

 

 最初、聞いていいのかどうか分からないので、だけど、尋ねたら、いろいろな事も教えてくれた。ここにこもっているときは、最初は半年間ひきこもっていたのだから、1週間くらいは楽勝と思っていたが、ただ3日を過ぎたら、違っていた。この構造物は思ったよりももろく、何かしらの刺激で壊れる可能性も高い。それにこの構造物の空気穴をふさがれたら死んでしまうし、やはり死を覚悟して入っていたし、本当にそんな気持ちになり、そして、ギャラリーの担当者との齟齬も出てきた、という話になった。担当者はそんなことくらいは大丈夫でしょ、というような事で、もめるに近いことになったらしい。

 

 それは、実際のひきこもりをしている当人と家族との関係に近い、という言い方をしていた。そう考えると、もしかしたら、この構造物にこもっていた時間と、周りとの関係も、実際のひきこもりの場合と似ているのかもしれないとも思った。

 

 展覧会のメインの写真は、半年間のひきこもりの生活をやめる、という日の自分の写真だった。そう聞くと、どこか修行の人の目、というように見える。今、目の前にいる人とは違う切迫した雰囲気に感じる。この瞬間を残したのは、やはり、ひきこもる前にもアーティストだったという事も大きく関係しているのかもしれないが、当人もそれが個展になるまでになるとは思ってなかった、という話もしてくれた。その時の部屋の写真。それから、その時の部屋の扉をのこぎりで切って穴をあけたこと、そうしたすべてのことを作品としようとしたのが今回の個展らしい。

 

 そして、この個展の会場は、枯山水のようにも見て欲しい。そのように配置されている、という事だった。確かに、そうも見えた。

 

 どうしてひきこもりをやめようと思ったのか。聞いていいかどうかを確認して、聞いてみた。外圧だという話だった。短くまとめれば、両親からの働きかけがあり、母も救おうと思って、やめた、という事だった。話してくれてありがたかったが、自分自身では恥だと思うけど芸事という言い方に昇華されているようだった。

 

 その話の中で、今は、その時と同じようにするために半年かけてヒゲも伸ばしたが、これも自傷行為だと思う、というのも印象に残り、さらには、今回、閉じこもる、ということをしたのも、ひきこもりの方々から写真を送ってもらっていて、そういう時の気持ちを思い出すため、という気持ちもあった、という話をして、誠実だと思ったので、そう伝えた。これだけ話をしてもらったので、自分の介護の話とか、今の仕事の話もしたが、余計な部分もあったように思う。

 

 すごい展覧会を見た。

 苦しい時に、アートに支えられた、という話をすると、それはうれしいです、と言ってくれた。

 行ってよかった。

 

 

(2014年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.atsushi-watanabe.jp