アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

美学校・ギグメンタ2018「明暗元年」。2018.6.30,7.1,7.7,7.8,7.14~16。7会場。(あをば荘、デトロイトコーンクラブ、まぼろし空間ユブネ、float,sheepstudio,space dike,spiid)。

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美学校・ギグメンタ2018「明暗元年」。2018.6.30,7.1,7.7,7.8,7.14~16。7会場。(あをば荘、デトロイトコーンクラブ、まぼろし空間ユブネ、float,sheepstudio,
space dike,spiid)。

 

2018年7月1日。

 この前、たまたま「美学校」というところの修了展を見て、さらに初めて講評も見た。何の関係もない人も見ていい、ということで出かけて、身内ばかりしかいないけど、その熱気とか講師の誠実さに、大げさでなく、心を洗われるような気持ちになって、そのことで、その作品の見え方が違って来て、でも、それは作品そのもので伝わるものは伝わるべきだろうし、とは思ったが、これだけの貴重な指導というものが行われている事に何だか感動もしたことがあって、それ以来、松蔭浩之ツイッターも見るようになり、それで、実は毎年行われている美学校の作家の行っているギグメンタというものを知り、その中で新しい元号を「明暗」と名づけて、展覧会が開かれることも知った。

 

 その中心となっているような中島晴矢という人の文章を読んだり、会田誠もゲストとしてやってくる、といったことを知って、本気なんだ、ということも知ったり、墨田区を中心に行ったことがないギャラリーばかりだったので、知らない場所に行きたい気持ちと、行くのがめんどうくさそうだという思いもあったが、行きたいんだけど、と妻に相談して、OKも出たので、出かけることにした。ただ、7カ所を回るのに、どれくらいの時間がかかるのだろう、といった不安もあって、いろいろと資料を調べたり、回り方の確認をしたりして、プリントアウトをして、明日に備えたが、ワールドカップのフランスとアルゼンチンの試合がすごくて、いい試合だったので、なんだかしばらくぼんやりともしていたが、いつものように寝て、起きたら、暑くて、眠れなくなっていて、午後1時前だったから、洗濯もして、風呂も洗って、出かけた。

 

 乗り換えて、亀戸駅で、初めて乗る東武亀戸線。いつも暮らしている東京の西の端とは違う雰囲気で、それは自分が普段、狭い場所で生きていることを改めて感じた。

 

 初めて降りる駅。小村井駅。

 ギャラリーが、どこにあるか分からなくて、住所表所を間違えてみていて、逆の方向へ行って、迷って、もう一度、駅に戻って、歩き直して、小さなギャラリーを見つけた。たぶん、町工場を利用した場所。500円を払う。最初のギャラリーは「float」。3人の作品。美学校の修了展で在日3世の作家で、ヘイトスピーチを韓国語で話していた上條信志の作品は、のり巻きについてだった。パチンコをテーマにして、朝鮮半島のこともからめて、撮影禁止にした作品は、チキン・コルマ。祭壇を作っていたのが杉野晋平。迷ったせいもあって、午後3時半を過ぎていて、これから6カ所回れるのだろうかと不安になり、次の場所をスタッフに聞いたら、細かくは分かりませんが、と外に出て教えてもらった。

 

 そこから歩く。少し迷いながら、歩く。向こうからホームレスらしき人が歩いてくる。今日はすごく暑い。地図を見ながら、でも迷って、小さめの町並みの向こうにスカイツリーが見える。異物感があるたたずまい。もうひとつの巨大な月が上ってくるようなでかさに、それも親密さというよりも侵入してきているように見える。こういう光景も初めて見た。

 

 迷って、ここでいいんだろうか、といった場所で、やっと見つける。まぼろし空間ユブネ。田田野。中年といっていい作家が、恨みをテーマに作品を作っていて、好感が持てるし、実際に形にしたことだけでなく、そこに笑いが出るようにしているのも素晴らしかった。

 

 

 その奥の「あをば荘」。齋藤はぢめ。田中良祐。元カップル。それも7年前に別れているどちらも美大出身で、つまりは同じ大学で知り合ってつきあったであろう、どちらも作家。そして、今回の展覧会のために、二人で作品を作った、という。個人的には、今回で一番よかった。元カップルで、その時の映像を、齋藤はぢめが消せてなくて、それと最近の映像を組み合わせたもの。カラオケでも、歌ってほしかったスピッツのロビンソンを歌ってもらい、過去の映像にも、言ってほしかった、ロマンチックとも思える言葉を合成しているから、ぎこちなく伝わってくる。でも、リアルと、演じているのと両方の映像が、まだ20代だから、あまり違和感なく混じっていて、でも、本人の言葉を聞いたあとだからかもしれないが、確かに違っていて、それは戻らなくて、と思うと、全く関係ないのに、切ない気持ちになる。

 

 田中良祐は、この時間の中で男性とつきあって、別れて、その感じをまた作品していて、それもまた切ない感じはする。

 もうひとつの映像作品。つきあっている時にお互いにプレゼントをした。天蓋と、ビートルズホワイトアルバム。それについての文章も、素直で魅力的だったので、心がきれいな人の文章だと素直に感じる。その映像は天蓋に二人で入って、それも女性が待っているところに男性がはいってきて、二人でホワイトアルバムの最後の曲を聞きながら二人で躍ることにして、それは、その時によく行っていたアパートのある八王子の夜景をバックにしていて、最後だけ曲が流れる、とても美しい映像だった。なんだかすごかった。

 

 作家の齋藤はぢめが、親切にもいろいろと話してくれる。作品を見て、泣いてしまう女性観客もいるらしい。タイトルもスピッツの曲から「二人だけの国」。

 

 

 そこから、また歩いて、迷いながらも、キラキラ商店街という名前がついていたりするところを抜けると、本当に狭くて小さい家が並んでいそうな場所にまたギャラリーがある。おしゃれな感じの作品もあって、あとは渋谷を舞台にした女性3人の作品もあって、そこからもっと大きくて本格的で、プロとして長く活動している講師の作品も並んでいて、そこからバスに乗る。泪橋、というバス停の次で降りる。地図を見てるのに迷って、でも最後の会場に間に合う。政治的なテーマだった。

 

 そこで終わって、1日、充実していた。1時間近くで、まったく知らない、いつもとは違う異質感のある街も歩いてまわれた。約4時間、暑い中を移動して、着替える機会もなく、ずっと汗だくのTシャツで回っていた。マクドナルドへ寄ったら、お金の話ばかりを大きい声で話をしている若い女性がいた。携帯で大きい声で話をして、向いにいる男性が、おれが嫁にしかられるパターン、という言葉が出ている。同じカウンターでは、女子校生が勉強をしていた。静かに、この環境でもかなり集中しているようだった。

 地下鉄に乗って、帰って来た。

 

(2018年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。