アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「手探りのキッス 日本の現代写真」。2001.9.11~11.25。東京都写真美術館。

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「手探りのキッス 日本の現代写真」。2001.9.11~11.25。東京都写真美術館

 2001年11月25日。

 最近、フリーペーパーの展覧会のプレゼントのコーナーによくハガキを送るようになった。当選率が高いせいもある。そこで当たった招待券。9月からやっているのに、結局、ギリギリに見にいった。

 

 日曜日、午後二時。恵比須で降りて、山頭火というラーメン屋で食べようと思ったら、急に人の列が出来ていて、それがそのラーメン屋の行列で、驚いてやめた。

 

 それで、おにぎりを買って、妻と2人で動く歩道の上に止まって、食べながら動いていった。

 

 写真美術館。久しぶり。

 最初、米田知子。ヘッセのメガネ。とかいう写真。ヒットラーの泊まっていたホテルの写真。なるべくニュートラルに撮っているのだけど、そういう意味のある場所ばかりが並んでいる。そのキャプションを読んで、また違う見方にどうしてもなってしまう。そういうおもしろさもあるかもしれない。

 

 市川美幸。監視カメラを通した写真。観光地のタワーの上のコインを入れて見える望遠鏡を通した写真。世界のいろいろなところらしい。でも、こういう映像ってテレビを通したり、とかいう種類のリアルだ、と思っておもしろかった。

 

 国境を撮った渡辺剛。改めて、その場所を見ると、ああホントにあるんだ、という不思議さ。分っているけれど、その場所によって、ものすごく厳重そうだったり、ただの県境みたいな場所だったり、と、言葉でいうよりも確かに何かを感じる。仕切り。1人ではどうしようもない無力さ。みたいなものも、たぶん含んでいる。

 

 鷹野隆大、男の裸。ちょうど、性器のところで区切っていて、それは写真の裏にあるらしい。それに興味が向くのは、人の違いを知りたいということなのだろうか。

 

 鈴木涼子の自分の顔をしばったり、したような観念が先立ったようなものは、何となく嫌になるけれど。でも、それは苦痛が伝わってくるということかもしれない。

 

 海の中で撮った写真。楢橋朝子。海で泳いで、少し沖の方まで泳いで、実際にはホントに数十メートルに過ぎないのに、やけに遠くに感じて、心のどこかで、ものすごく低い確率でほとんど真実味もないのに、溺れるかも、などと思った時の海の中にいて、そこから見た景色をリアルに思い出す。

 

 そして、この展覧会のチラシにもなっていた小林伸一郎。廃虚をずっと撮っているらしい。その錆びた色。人がついさっきまでいたようなホテルの部屋。時間がたって、妙な朽ち果て方をして、違う空間になってしまっている感じ。ものすごく、おもしろいと思ってしまった。マッツという雑誌の小さな紹介欄で見た写真家だった。他のも見たいと思い、図書館で借りたりもした。何で、廃虚がこんなにいいんだろう。写真家の目を通したものとはいえ、どうして引き付けられるんだろう。写真集を借りて、その文章を読むと、思った以上にブンガクだったり、ロマンチックだったりして、少し引くが、その写真は、いいことに変わりはない。

 

 写真は、自分が出る。とかいうらしいし、これから自分の意志で隅から隅までコントロールするような映像が、もっとたくさん出てきて、そっちの方がクールとか何とか言って、評価されそうな気もする。

 でも、写真はその、エゴをどこか越えたような、写すものの方に寄って、どこか計算されないようなものまで映りこんでいる方がおもしろい、と思うのは、たぶん自分だけではなく、それはこれから写真を撮る人には、これまで以上に自覚的な部分がないと、やっていけない、というようなことも思った。映像の種類が増え、写真はいつのまにか別に新しいメディアではなくなっているわけだし、でも、こういう誰でも撮れる時代になってから、ホントにおもしろい写真が出てくるのではないか、という期待もある。

 

 帰りに恵比須の三越の裏の方にあるカフェに行った。まだ自分が大事に持っているブルータスのカフェ特集の時の小さな冊子に載っていた店。思ったよりも近く、そしてよかった。一軒家で、鉄筋だけど、木を内部に使っていて、木造好きの妻にも好評だった。3階に来たせいで、わりと落ち着いていたし、また来たいと思う店だった。

 

 夜になっても山頭火は、行列が出来ていて、あきらめた。

 もう、やや寒くなっていたのに。

 弁当を買って、帰って、食べた。

 

 

(2001年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

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