アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

あざみ野カレッジ「現代美術探求ラボ」vol..6。いま「限界芸術」を再考する。福住廉。2019.8.31。横浜市民ギャラリー あざみ野。

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2019年8月31日。

 他県に住んでいる人にも開かれているので、ありがたい場所。今回は、美術手帖の美術評論で賞をとって、デビューした美術批評家で、受賞作品を読むたびに、やっぱり無縁の世界ではないかと思ったりもするのだけど、それでも、今回、その講座の会員登録もしているし、五百円の講座料で聴けるということで、1ヶ月以上前には予約をしたのは、けっこうたくさんになってしまうのではないか、と思って、予約をして、当日は、気がついたら、その日になっていた。

 

 髪の毛をうしろで一本に束ねている人と、講座の前にトイレが一緒になって、この人かと思ったら、福住氏だった。午後2時になったので、ほぼ時刻通りに始まって、それも、スライドを使って、最初は、張り紙の写真から始まる。説明は淡々としていて、普通に専門用語も入れつつ、この張り紙は、といったようなことから始まる。

 

   これは、「サンパクガン」という作品で、それは、今から20年くらい前の2000年ごろの福岡で、よく見ると、毎週、駅前か何かに貼られていて、それで、1週間ごとに作品が進んでいく、ということに気が付いて、という話に進むと、そういうことがあったら、楽しそうだと思いながら、この作品のことで確か賞をとったのではなかっただろうか、みたいなことを思って、そのことについて、詳しく話が進むと、実は二人の作者がいて、別の人の作品を見て、次のを描く、といったようなことをしていた、というシステムだった、ということ。途中で、二人の作者と関係なく、全く違う作風で、誰かが、勝手に描いてきて、それを貼ってあって、作者たちがとまどったこと、途中で唐突に終わったので、福住氏が批評家となり、展覧会に呼び、その作品も最後まで描いてもらったらしい。

 

 限界芸術、という今回のテーマは、鶴見俊輔の著者からの言葉らしい。限界芸術の定義みたいな話もしているのだけど、今回、福住氏が加えるとすれば、身体性であってそれも含めて越後妻有トリエンナーレで、展覧会も開き、その中で、修悦体という話があって、それは、工事の現場などの案内のために、ガムテープで作った文字で、その形は独特だけど、その制作方法も思った以上に独特だというのも、伝えてもらう。今でも、新宿駅で、中央東口、東口を指し示すような案内がまだ残っているという。

 

 あと、この限界芸術、ということで、福住氏のあげるいくつかの例。

 切腹ビストルズ。

 パンクバンドだったが、東日本大震災以降、電気を使う楽器でなく、和楽器を使用するようになり、それも生活も電気を使わないような、江戸時代を目指し、だからセッタをはいているのだけど、そのセッタは、今のつるつるの床が多い社会は、すべって、とても不便だという。あとは、シルバーアートのこと。のりしろ、という部分が意味があるのではないか、という指摘。

 

 それからアーティストの浅井祐介の話にうつり、その中国での活動を紹介してもらい、その中で、美術展が盛んで、それも予算もかけて、浅井の作品は泥絵の具で壁画を描く、といった作品で、そのためにドームも建設し、さらには、その作品制作のために美大生のボランティアの協力があるのだが、ちゃんと働く分のお金が支払われていて、そのほうが常識ではないか、といった福住氏の指摘もあった。そして、この浅井の作品の限界芸術性みたいなところを話せば、泥絵の具を使っていて、その泥絵の具は、現地の土を使っていて、それも会期が終了すれば洗い流し、その現地に戻していく、といったやりかたがそうではないか、といったようなことを話していた。

 

 質問の時間があって、こうした話、アウトサイダーアートの時も思うのだけど、どうしても発見する、みたいな上から目線になってしまうことをどう思いますか?本当は、そのことで望まない生活になる可能性なども聞きたかった、そうした質問をしたら、確かにそれは本質的なことでもあるのだけど、発見しないと、そのまま見つからないままになってしまうし、といったことは考えている、という答えで、それだけで誠実なのかも、と思ってしまい、自分としては、たとえば浅井祐介の作品の時は、極力、ボランティアもして、何日も一緒にいるようにしている、といった答えで、それは誠実かもしれないが、シンプルすぎるのではないか、といった、聴衆としては、生意気なことを思った。ただ、いろいろと考えた時間だったし、鶴見俊輔の「限界芸術論」を読もうと思った。

 

 

(2019年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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