2013年12月28日。
カオスラウンジで、本当に「新しい」存在として出現した黒瀬陽平は、その後、いろいろとトラブルがあって、それも自分のせいで起こしたような事らしく、せっかくの才能なのに、とがっかりしたような気持ちになっていて、だけど、そのカオスラウンジのアーティストの作品自体は優れている、というのが今年になって改めて分かって、しかも本を出して、それを東氏がほめていて、それでトークショーを行うから、何かを乗り越えていると期待していた。
対談が始まったら、黒瀬陽平は前よりもちょっと元気がない気配に見えた。最初は話をしていたものの、途中から東に一方的に語られているように見えてきた。大丈夫か。そんなことを思うくらいだった。
その中でも、東氏の言葉はホントにシャープだった。頭がいいんだな、と本当に思えた。どこに所属しなくてもやっていく、という覚悟が今を作って来ているのだろうなとも思った。
さまざまな言葉があった。
論理と情報に価値がある。文体というのは装飾だけど、そこにこだわっていくのは、本当はあまり意味がない。
説明することは下品だ。みたいな感じが美術界ではあるけど、でも、それが出来ないヤツは消えて行く。
新しい前衛を作る。
カオスラウンジの普遍的な価値は?
自分で自分を説明できる。そういう人だけが、未来を切開けるアーティストだと思う。
打破するのは、言葉しかない。
日本のタブーはたとえば、AKBとかアイドルだと思う。日本における前衛はたとえばAKBと戦うということになる。
そして、最終的に人を不快にさせるものがアートだと思う。何かをやるのは、人を不快にもさせる。それでもやる、というのだったら、さらに高次元の価値のために、ということがないとダメだ。それは、正義とか善とか、そのために行っている、ということを断言できないとダメだ。
そんなことを話す東浩紀に、黒瀬陽平は、何も言えなくなり、まるでダウンしたように見える場面まであった。その黒瀬陽平に、いつのまにか満員で立ち見までいた観客の中から、応援が入ったと思ったら、梅沢和木だった。まっすぐな顔をしていて、すごく信頼しているのだけは分かった。「いつもは、もっとすごいのに」という言葉が出ている。さらには藤城嘘も発言して、そこに東氏が、「君たちのほうがきちんと話せているじゃん」みたいな事を言ったら、「この言葉も黒瀬さんに与えてもらったものなので」というような答え。これだけの信頼があるなんて、と本当にすごいと思った。
黒瀬陽平のどこにそんな力があるんだろう。そのうちにまた話が進み、もう倒れていたような黒瀬が、そうした声援で立ち上がり、その声援に答えたせいか、東氏のフォローもあり、最終的に少し強くなったようにも思えた。途中で、常連客という女性が、「黒瀬さんの力はこんなもんじゃない」という話になり、どうして、こんなに信者ができるんだ、という話にもなり、ここで聞いている人達はみんなそう思ったはずだ。
今年、3回ほど見た相手を変えたゲンロンカフェでのトークで、東浩紀は、どれも圧倒的に頭がいいし、強いと思わせてくれたけれど、それは、色々と悩んだ末なのではないかとも思えた。
だから、とても陳腐な言葉だけど、勇気をもらった。
東浩紀が、こんなにがんばっているんだから、と思えるような気がする。
自分も、能力的に限界があるとしても、なるべく明晰な論理で普遍的な価値を説明し続けるようになって、それを広げて行く努力をしようと思う。
(2013年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
黒瀬陽平×東浩紀「偶然を必然に変える力」ゲンロンカフェトークイベント
https://genron-cafe.jp/event/20131228/