アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

映画「ホーリーモーターズ」。2013.5.23。渋谷ユーロスペース。

映画「ホーリーモーターズ」。2013.5.23。渋谷ユーロスペース

2013年5月23日。

 ユーロスペースが、違う場所になってから、初めてだった。東急本店を右手に見て、左側に曲がる坂道。そこは、ホテル街になっていて、その時と変わらずに、まだラブホテルはたくさんあるけど、その道と道玄坂をつなぐ道は、映画館だけでなく、その前にライブハウスが出来たことで、普通の道路になっていた。映画館は、思った以上に広く、思った以上に立派なビルで、変な意味でのマニア臭は薄かった。開始時刻の1時間半くらい前に来て入場券を買ったのに、整理番号が2番だった。
 

 映画が始まった。何をしているか分からなかったが、目が離せなかった。白いリムジンに乗った主人公が、次々といろいろな人になっていく。特殊メイクをしての演技というものだろうが、それがなぜ仕事になるのか?とか、誰がクライエントなのか?とか、そういう事は一切説明されずに、話は進んで行く。

 

 アポは9件。という言葉が出ているから、途中から、数を数えたりもするのだけど、それが終るたびに、またリムジンに戻り、次の準備をする。何事もなかったように。途中で刺されて、死ぬんじゃないか、みたいな傷を負ったはずなのに、リムジンに乗って、次の準備をしている時は、もう何事もなかったようになっている。

 

 映画の引用とか、いろいろとしていたみたいだし、ゴジラの音楽は分かったけど、うしろの方の観客は笑っていたから、映画的な教養があれば笑うのだろうけど、それより、ホントに夢のような、変な感じ、妙に重苦しい感じがずっと続いていて、突飛なのにシリアスな空気が流れ続けているのが不思議で、リムジンのドアが閉まるたびに、音が遮断され、急に窓の外の景色が遠ざかる感じの孤立感とか、時々、すごくつながっているようにさえ、思えた。

 

 そして、次々といろいろな人になって、途中では、急に平凡な父親になったりして、そういえば、この場合は、誰が頼んだのだろう?とか途中で、人を撃ち殺して、自分も撃たれたはずなのに、次にすぐに立ち上がれたりとか、説明はすっとばして、でも、何かが起こっても続いていく。

 

 かつての夫婦とも思えるような女性とあったが、それもなんだか、その女性が飛び降りて、死んでいるかも分からない感じで、そのまま過ぎ去り、最後は自宅だが、最初の始まりの時の自宅とは違い、映画の引用とか、いろいろありそうだけど、それより、どうして、こんないろいろな事を、細部の感じを思いつくのだろうか、みたいな事を思っているうちに、その自宅にはチンパンジーの妻がいたりする。えー、という感じで、コントかよ、と思ったが、それは大島渚監督へのオマージュらしい、ということが帰ってから分かったりもしたが、それで終るかと思ったら、リムジンが集まってくる場所が、ホーリーモーターズというところで、そして、運転手だった女性も仮面をつけたりもして、終わりかと思ったら、最後はリムジンがしゃべり始めて、終った。

 

 なんだか分かんないけど、すごいものを見た。この映画を見ている時にしか味わえない感じがした。

 

 この監督は、寡作で、この前の映画が1999年で、13年ぶりの帰還になるというのを知った。私は、1999年から仕事をしてない。今年から始められたら、13年ぶりの帰還という意味では一緒で、それだけのブランクがあっても、これだけのものを撮れるすごさがある人と比べてはいけないけど、でも、縁起がいいと思った。

 がんばろう、と思えた。

 

 

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