『サウルの息子』公式サイト
https://www.finefilms.co.jp/saul/
2016年3月9日
ライムスター宇多丸さんがラジオでしゃべっていて、そのことで気になっていたが、そのあとに町山智浩氏も、そのことに触れていて、それは、自分が勝手な思い入れに過ぎないけれど、「夜と霧」を読んだ時に、この閉塞感や拘束感が、介護で辛い時期と、似ている、というような感じがしていて、それもあって、昔見たことがある「ショア」の監督が、この映画は評価していた、という事もラジオで知り、それもあって、そんなに体験としてリアルに近い(という言い方も不遜というか、失礼なこともあるのだろうけど)のかと気になっていて、さらに失礼な話だけど、当事者ではない人間に、その感じをどう伝えればいいのだろうかと最近けっこう悩んではいて、というよりも、以前からそのことは考えていて、それもあって、見ないと、と思った。その前に「スターウォーズ」もやっと見たし、次はこの映画だとも感じていた。
黄金町、という場所で見ることにしたのは、今日はで出かけて、その帰りの時刻に、急げばちょうど間に合うのでは、と思ったから、時間を確認して、ボランティアの時間も何だか焦って、寝不足なのか微妙にめまいが起こるような気もして、人は死んでしまうんだな、と思ったりもして、雨が降って、寒いと、本当に気持ちが沈むというか、盛り上がらず、という気持ちのまま、黄金町、という独特の街を歩いて、公衆電話も少ないから、そこで焦って、妻に電話をして、それから映画館に向かった。
上映まで、あと10分くらい。整理番号は13番だった。平日の午後5時すぎの開始なのに、けっこう人がいると思ったが、考えたら4分の1も入っていないのだろうから、ガラガラなのだろうけど、前に人が座っているだけで、混んでいるような気持ちにもなる。
画面が、最初からそんなに大きくないのに、さらに小さくなった。正方形で、最初の画面がリヒターの絵みたいにピントがぼけている。なんだか分らない。なんだか分らないまま、主人公と思われる男の顔が大きく映って、その周りに何かが起こっていて、やたらと不安な感じが漂って、そして慌ただしくて、考える、という事からもっとも遠いところ、というか、そのうちに、というか、前もって、どんな映画かを知っているからか、ナチスの強制収容所で、それも大量虐殺がおこなわれている現場だということも、分ってくる。
こんなに情報が少ないけれど、考えたら、考えられないし、想像するしかないのだけど、何が起こっているか、何をしているのか、何の目的なのか、そして、完全にすみからすみまで管理されているわけではない、というすきまもあったり、ただ、そのことが余計に負担というか、悲惨さ、いや、悲惨という言葉が浮かびにくかったのは、目の前のことに追われて、いつ殺されるか分らなくて、死ということが、処理にされ、とても軽く、というかノルマというか、最初はガス室からのどんどんと叩く音も聞けないくらいのものだったと思うのだけど、たぶん、毎日だと慣れるのだろうと思ったりもした。
何が起こったから分らないうちに、収容所から脱走するのだけど、途中で、あれだけこだわった自分の子供の葬儀に対して、ずっと運んでいた子供の遺体を川で手放した後、追って来ていたドイツ兵に殺される、という最期で、何の救いもなかったように見えた。
この映画は、これだけ制限があることで、もしかしたら、こういうような感覚だったのかもしれないと、思わせる作品で、やっぱり凄かった。