アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

『ART SQUIGGLE YOKOHAMA 2024』。2024年7⽉19⽇〜9⽉1⽇。横浜山下ふ頭。

 

2024年8月24日。

artsquiggle.com

 

 会場は広かった。

 天井も高い。

 渡された会場の案内図を持って、中を歩く。

 最初に入り口付近の作品に自然と見に行ってしまう。

 

 そこには少し暗い中に立体が積み重ねられていた。ただ、それを構成する立体は、自分自身のプライベートな部屋と関係のありそうな要素が入っているようだった。それは、そのブースの壁に設置された作品にも反映されているようだった。その日常が入っている感じがいいと思った。作者は、宇留野圭

 

 他の出展作家も、ほぼ知らない人ばかりだった。プロフィールを見ると、30代前後だから、アートの世界だと若手と言っていいのだと思うし、だから、やはり見る側も勝手なことだけど、新しさを求めてしまう。

 

 会場の中で、それまで見た記憶のある作家は一人だけだった。

 藤倉麻子。

 CGを使った、見たようで、見たことのないような風景。ちょっと引っかかりのある映像が続く。それは、ある時期以降のものだけがつまっているようにも見えるので、そういう意味では新しさを感じる。

 それも、まだ2度目だけど、やっぱり違う感じがするけれど、この作家のもの、という印象は共通するから、それだけ、その人独自のものが色濃く反映されているのだと思った。

 

 新しさとは、なんだろう。

 基本的に若い作家が制作するものは、新しいような感じがする。だから、若いアーティストの作品を展示した方が、これまでにないものを、そこで見られる気がする。

 ただ、それだけで新しいわけでもない。

 今回も、もし新しさといったことをテーマにしてくれて、そのことに絞って、露骨でなくてもいいので、それが少しでもわかるような展示方法にしてもらったら、また印象が違うのかもしれない、などと思ってしまった。

 

 そうした中で、普遍的であるような、大げさに言えば、人のどうしようもない業のようなものを感じたのが、山田愛の作品だった。

 少し薄暗い部屋のような場所に円盤状の何かがある。

 それが、無数の石を並べてあるものだと入る前に、知識として知っていたのだけど、それをわかりながら、だけど、その情報と、実際に目の前に、石が並ぶのを見ると、その情報の中だけではおさまらない、戸惑いのようなものを感じるのは、石がそれぞれ、いろいろと違う過程を経て、微妙に違うことを、見ていると、いやでも伝わってくるかもしれない。

 さらには、その無数の石を作者が自分の手作業で並べている。

 作家が、長く続く石材店の子孫であることも、見る側が、そこに意味をさらに乗せてしまうことも、鑑賞者の見方に影響を与えているのかもしれない。

 

 そして、中島祐太はワークショップを体験させてくれた。

 土曜日の夕方のせいなのか、音楽のイベントがなかったせいなのか、入場者が少ないせいで、そのワークショップもあまり待つことなく体験ができた。

 それは「かつて鉱山で働いていた朝鮮人労働者のエピソード」(「アーティストノート」より)を元にしたワークショップだった。

 少し暗くなっている場所で、ノミとハンマーを使って大きな岩を砕き、その破片を砂にしていく。その体験をさせてもらうのだけど、岩が大きくて、おそらくどれだけ力を入れても、少ししか削れない。

 その頑丈さは、ちょっと怖いくらいだった。

 もちろん、これだけの体験で、わかったようなことは言えないけれど、鉱山の労働はとんでもなく大変だったことは、今までよりも少し想像ができる。そして、この大きい岩を運ぶのも大変だったとは思うのだけど、このワークショップは、この巨大さがなければ、印象も違ったはずだ。

 

 藤倉麻子、山田愛、中島祐太の3人の作品は、特に印象に残っている。

 

 この展覧会全体で、「スクイグル」というあまりにも広いテーマではなく、もう少し絞った、統一されたテーマのようなものを感じさせてくれたら、鑑賞後の印象はもっと違っていたとも思う。それに、ここにいる作家が、どうしてここに作品を出品しているのか。共通点は何か。そうしたことがもっと明確に打ち出されていれば、どうしてもバラバラになりがちな、こうしたグループ展全体で、さらにいろいろなことが伝わった気がした。

 試行錯誤を表すのであれば、机の上に資料を並べるよりも、もしかしたら、短くても制作途中の動画などがあったりした方がよかったかもしれない、などと鑑賞者は、勝手なことを思った。

 

 

 

 

(『現代アートとは何か』 小崎哲哉)

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