
2026年5月5日。
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5360.html
(水戸芸術館 現代美術ギャラリー)
ギャラリーの入り口でチケットを見せて、階段を上り、展示室の前まで来た。ここには何度か来ているから、ある程度はその展示室のレイアウトのようなものを把握していると思っていたけれど、その入り口は壁があって、そのままでは中に入れないようだった。
その前にはリュックが置いてある。
この展示に興味を持ってから、いろいろと調べて、鑑賞ガイドのような記事も読んでいたので、ここで何かすればいいようで、それを、近くにいたスタッフに聞くと、壁を押してほしい、といったことを伝えられた。
そこにいた小さい子供も連れた家族の人たちと、壁を押した。
床から天井ぴったりの位置までの壁を押すと、動いた。
押すと動き続ける。家族づれの人から、押す場所を譲られたりもしながら、さらに押して歩く。天井に設置してある照明が壁を押して動くたびに、姿を現して、光が注がれるような気がする。
何メートルか分からないが、思ったよりも押して歩き続け、こんな体験を、展示空間でできるとは思わなかったし、ここに来た時の記憶と、頭の中で照合しようとしていたが、それがうまくいかないうちに、横に次の空間が現れた。壁が動くたびに、その空間が広がっていくような気がする。
新しく現れたような感じがする空間へ、移動する。
それまで押していた壁は深い青い色だったが、その次の空間に歩いていくと、今度は、赤い壁があった。
今度も押す。
最初、このギャラリーに入ってから、どの方向へ向けて、進んでいるのか。展示室のどのあたりにいるのか。そういった感覚は、もう分からなくなっている。
そして、この壁を動かすこと自体が作品だし、この体験自体が新鮮でもあったのだけど、次の壁も、家族連れと一緒に、また押す。
今度は、いわゆる展示室にたどり着けるのではないか。などと思って、押して、また横に空間が現れるが、そこは、今度は黄色い壁が立ちふさがっていた。
楽しかったけれど、ちょっと不安になる。いつになったら、別の作品を見ることができるのだろう。
そこから、さらに黄色い壁を、その家族と一緒に押す。
今度は、これまでと比べても、押す距離が長い。
どこまで行くのだろう。そして、何度か、この水戸芸術館の現代アートギャラリーには来ているのだけど、今、どこにいるのか、わからなくなってくる。
横に部屋が現れた。
そこには、平面の作品もある。
鑑賞と行動
うさぎが登場人物になっているが、ボクシングのレフェリーストップの絵は、目に入ってくる。
確かにあの瞬間は、ボクシングを見ていても、不思議に思う時がある。
格闘技という、相手を壊す行為の中で、もちろん戦っている人間は、戦いを止めることを望むわけもないのだけど、レフェリーという、その試合をコントロールしている人間が、その戦いは実質的には決着ついていて、これ以上、この試合を続けると、打たれている側のダメージが大きくなりすぎ、場合によっては命に関わる。その瞬間、強制的に試合を止める。それは、負けが決まった側にとっては、とても納得ができないかもしれないが、それは、その選手を守る行為でもある。
この飯川の作品は、その守る、という面が強調され、それも、ちょっとラブリーに見える絵画になっていた。
ああ、そうだ。あの行為は、守っているんだ、というような気持ちになれた。
いくつもの展示室には、ロープやハンドルが壁に設置されている。子ども連れの観客も多かったが、ロープを引っ張ったり、ハンドルを回したりと、遊園地のような空気感になっている。
そして、そのロープがどこにつながっているか、ハンドルを回したのが、どのように作用しているのかが、分からない。そして、思ったよりも重かったり、軽くなったりして、それが、どんな法則なのかも、見えない。
あちこちにリュックやスポーツバッグが置いてある。スッと持ち上げられるように見えるのに、持ち上げようとすると、重い。そこに固定されたような、無理に持とうとすると、ちょっと血の気が引くような重量だった。
大きな壁は動かせるのに、小さいバッグは動かせない。
ハンドルを回したり、ロープを引っ張っても、どこにつながっているのか、わからない。展示室で、他の作品を見ていると、そうしたロープが壁に吸い込まれていく。それは、ここからは見えない場所で、誰かが引っ張っているはずで、そのことを想像すると、気持ちがどこか別のところに行く。
このギャラリーに入る前に、水戸芸術館のシンボルのようなタワーの上部(たぶん100メートルくらいはあると思う)からロープがぶら下がっていて、その先にリュックのようなものがつけられていて、揺れていたのは、見た。
おそらく、この展示室のどこかのロープは、そこにもつながっているはずだった。そんなイメージを持てるだけで、気持ち自体が広がっているような気がする。
かなり天井の高い部屋に、大きな赤くかわいいネコと、緑の山のような立体で、いっぱいになっていて、視覚的に、それだけで面白いところがあった。
あちこちに歩いて、ちょうど連休中だったこともあり、子供づれの家族も多い。引っ張ったり、回したり、体を使ったりする場所も多いので、楽しそうにしている子どもの姿も少なくなく、ロープを引っ張る順番を待っていたりもしていた。
ある天井からのロープを引っ張る、かなり力がいる。それでも何度も引っ張って、とても抵抗が強くなっても、さらに引き出そうとしたら、スタッフの方に、それ以上は---と止められた。
こうしたリミットがあって、それをスタッフが頃合いを見て、注意されるという人間的な管理も、何だか良かった。
明るい空気が、展示室のあちこちに満たされていた気がする。
壁を押して、展示室への通路ができると、そこは、最初は壁に阻まれた場所であったのが、ごく普通のギャラリーのようになる。
そのタイミングで、ここに訪れた人は、この展示の独自性のようなものを、味わえる機会を逸してしまうなどと思い、だから、一度は展示を見て、またもう一回最初から見たいと思った時は、壁は移動したあとで、だから、ごく普通の通路になってしまっていた。
だから、展示室まで少し距離があるギャラリーのような印象になっていて、それで、スタッフの方に、この壁のことを聞いた。そうしたら、およそ15分に1回というペースで、鑑賞者が押して移動させた壁を、元の位置まで人力で戻す、ということを聞いた。
そうした作業を、こうした場所で働く人は、携わってこなかった可能性もあるから、それを行なってもらうために、納得してもらうような話し合いなども考えると、ここに至るまでの膨大な時間のようなものを想像してしまう。
実際に、壁を押して、セッティングしているところも見たけれど、一生懸命だけど、淡々と冷静に押しているスタッフの後ろ姿をみると、なんだかありがたい気持ちと、この光景も含めて作品だと思った。
一度、展示室を出て、ミュージアムショップで、いろいろと購入し、少し座って休んだあと、もう一度、展示室へ入って、壁を押すところから、また始めた。
この作家の展覧会は、東京都内で同時期に何ヶ所でも行われているらしい。ここに来ようと思った時に、初めて知った作家なのだけど、他の展覧会にも行きたいと思っていた。
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