アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

『切手デザイナー・貝淵純子 講演会』---『少女たちのお手紙 1890-1940 展』関連イベント。2024.1.21。町田市民文学館 ことばらんど。

 

https://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/bunka_geijutsu/cul/cul08Literature/tenrankai/otegami.html

(「町田市民文学館 ことばらんど」ホームページ)

 

2024年1月21日。

 東京の町田駅から歩いて、少し不安になる頃に、「ことばらんど」があった。

 午後2時からの講演会に間に合った。

 建物の2階に上がり、会議室と思われる場所の前に机が出されていて、その前に受付けがあって、私と妻の名前を告げたら、資料と、2円切手のシートも入っていた。

 会場は、ほぼ満員だった。定員が80名のはずだったから、70人ほどはいると思った。

 ここに来るまで汗をかいていたので、1階のトイレに行って着替えたら、戻ってきたときは、すでに講師が会場に来ていた。

 穏やかな気配の人だと思った。

 会場の前の壁面に映像を映して、話が始まる。

 

 切手デザイナー、という存在は、普段は意識もしていないし、そうした仕事があることも、なんとなくうっすらと意識する程度で、どんな人がしているかも知らない。

 改めて、いろいろなデザインの切手があって、中には、知らないうちに発売されて、いつの間にか売り切れていて、できたら欲しかった、といった気持ちになるような切手もあった。

 そして、切手デザイナーという存在は、今は日本郵便という会社に所属するおそらくは会社員で、現在は7人いること。さらには、その人によって、そのデザインに個性があること。そういうことも初めて知った。

 

竹久夢二

 さらには、講師である貝渕純子氏が、デザインをした竹久夢二の切手についての具体的な話題になった。

 

https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2021/0201_01/

竹久夢二 のデザインをモチーフとした切手)

 

 2022年に発売された切手は、見た記憶はなかったが、一目見ても魅力的で欲しいと思えるものだった。

 それが現実に販売されるまでの、デザインの案を提出するところから、その案をどうやって組織の中で通していくか、といったような話も聞き、そういう場面は誰でも経験があるのだろうけれど、私も、過去の印象を思い出した。決定権があって、状況に詳しくないのに、売り上げは望めるのか?を繰り返す、無責任な中年男性のことを、今、貝渕氏が話をしている人とは関係ないのに、勝手に重ねて、微妙に嫌な気持ちになってしまった。

 

 それでも、貝渕氏はさまざまな努力や工夫や、周囲の協力を得て、販売までを実現させた。

 その中でも、かなり細長い切手があって、それが魅力になっているのだけど、こうした形のものは前例がないため、そのデザインを了承してもらうためにも、さまざまな工夫をしていた、という話を聞き、私のようにただ嫌な気持ちになるだけではなく、実現させるための具体的な対策をきちんと粘り強くしているようで、それにも凄さを感じた。

 

「切手デザイナー」という仕事

 切手デザイナーの作品は、それでも多くの人が見る。さらに切手として手にとって、デザインが工夫されていたものだったら、手紙を出す相手のことを考えて、使うことが多い。

 しかも、昔は、記念切手を集めることが趣味として成立していて、販売価格よりもかなり高価で、売買されていた時代もあった。

 これから先、郵便物が少なくなったら、また意味合いが変わってくるかもしれないけれど、それでも、切手のデザインというのは身近でありながら特別な印象は、ずっと変わらない。そして、場合によっては、特定の切手と思い出が結びつくことさえある。

 だから、特別な仕事というイメージがある。

 

 切手デザイナーという仕事は、現時点では、専門職として日本郵便に雇用され、それも、いつも募集があるわけでもなく、最近だと、ほぼ1人採用に対して200名の応募があるということだったので、やはり、切手デザイナー、という仕事自体が、会社員でありながら(雇用形態は、詳しくわかりませんでしたが)選ばれた存在であるのは間違いなかった。

 やはり、切手デザイナーは、その仕事自体が表に出ていて大勢の人に見守られていて(時に見張られるかもしれないけれど)、なじみがありながら、現時点では7人という、ごく一部の人が行なっている特別な仕事だという印象になり、そうした仕事をしているのは、もちろん外からは分からない大変さもあるに違いないのだけど、やはり、ちょっとうらやましかった。

 講演会の最後は、講師の方が、私物の中からプレゼントを用意してくれて、自分自身がデザインした2円切手のシートを入れてくれたカードに番号が書いてあり、その番号を読み上げて、当たった人に手渡す、という時間で締めくくられた。

「いらないかもしれないので、もし必要ない方はそっと置いていってください

」。

 

 講師の貝渕氏は、そうした言葉を繰り返していたが、こうして、無料で聴きに来ている聴衆にまで気を配ってもらったことは、わかった。

 切手を見る目が、おそらくちょっと変わる。それをデザインした人の存在を、少し強めに意識するようになると思う。

 穏やかで、興味深い時間だった。

 

 


 

 

(書籍 「切手デザイナーの仕事」)

https://amzn.to/3UGGATY