『アートの地殻変動』 北川フロム
アートによって、町おこしや地域おこしをしようとしている自治体は、今は、かなり多いのではないだろうか。そのことすべてが素晴らしいとは思わないし、その「〇〇ビエンナーレ」や「〇〇トリエンナーレ」や、「〇〇芸術祭」が多くなったけれど、当然、質の違いもある。
「アート」が本当の意味で理解され、社会に定着したかどうかは別としても、こんなに「アート」によって、人を集めようという試みが、21世紀に増えるとは予想できなかったけれど、それは「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」を企画し運営した著者・アートディレクター北川フロムの成功がなければ、起こらなかった現象だと思う。
その北川氏が、アート関係者25人との対話集。この書籍で、北川氏が、学生運動に深く関わってきたことも初めて知った。そして、当然ながら、その対話で印象に残った言葉もあった。
福武總一郎(ベネッセホールディングス取締役会長)
直島や犬島の製錬所から出る亜硫酸ガスの煙害、豊島の産業廃棄物の大量不法投棄など、近代化の中で、島々は傷つき、痛めつけられた歴史があることを知った。
マネージメントという観点が、今のアートシーンには全くといっていいほどない。
経済は人々を豊かにする手段で、目的は文化だと。
池田修(BankART1929代表/PHスタジオ代表)
展覧会のオープニングは土曜にはやらない、金曜にやるという考え方。そうしないと行政関係の人が来て挨拶できない。そういう小さなことを、ものすごく気をつけてやっています。
「場」については、そのことばっかり考えているような気がします。僕は基本的に人の心が動くことに興味があって、その場を訪れれば楽しくなったり、元気になったり、また悲しみの深さを感じたり、そういう「場」をつくることが、知らず知らずのうちに自分の仕事になってきました。
村上隆(アーティスト)
(村上が、ジェーム・タレルの作品は、地元への密着度と、質が高いですが、の言葉の後。日本人アーティストはどうですか?を受けて)
北川 作品としての強さがないですね。それは決定的なんじゃないですか。スカっと分からない。
村上 でも置いておくわけですよね、北川さんは。
北川 しょうがないでしょうね。僕は完璧主義ではないんですよ。
(国家のフレームについて)
北川 それは一旦解体すると思いますね。
村上 解体とか終わりとか、そういったサブカル的な詭弁を造らない、というのが僕らの世代の行うべき仕事と思ってます。
村上 国家をなくしてしまったアーナーキズムに、未来を感じないからです。そこまで前衛的になっても現実が動かないと思ってる。
北川 僕の場合は、すっ飛んだ、メチャメチャ夢みたいな目標を掲げます。
対話相手は、全部で25人。かなり広範囲の関係者に及ぶので、読む人によって、興味を持てる対話も違うのではないかと思う。
福武總一郎(ベネッセホールディングス取締役会長)
池田修(BankART1929代表/PHスタジオ代表)
加藤種男(企業メセナ協議会専務理事/元アサヒグループ芸術文化財団顧問)
福原義春(資生堂名誉会長)
木下直之(美術史家)
中原佑介(美術評論家)
浜田剛爾(パフォーマンス・アーティスト)
松本雄吉(演劇集団「維新派」主宰)
佐藤卓(グラフィックデザイナー)
山下洋輔(ジャズピアニスト)
藤森照信(建築史家/建築家)
糸井重里(ほぼ日刊イトイ新聞主宰)
山出保(政治家・前金沢市長)
杉浦康平(グラフィックデザイナー)
平良敬一(編集者/建築思潮研究所主宰)
篠山紀信(写真家)
横尾忠則(美術家)
橋本治(小説家/評論家/随筆家)
草間彌生(前衛芸術家/小説家)
村上隆(アーティスト)
川俣正(アーティスト)
小嵐九八郎(作家/歌人)
辻井喬(詩人/作家/セゾン文化財団理事長)
高橋信裕(文化環境研究所所長)
時間が経つほど、より貴重な記録になっているように思う。