アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

書籍 『レストランの新しいデザート』 柴田書店

 レストラン エル・ブジの話をある雑誌で読んだ時、衝撃だったのは、そのコンセプトだった。たとえば、泡を料理として出す。まるで科学実験のような、さらには本当にアートのようなメニューに感じた。

 スペインの予約が取れない人気レストランに、自分では行けるわけもないのに、そして、写真を見ても、味も分かるわけもないのに、行きたいと思ったのは、圧倒的に伝わってくる「新しさ」があったからだった。

 

「レストランの新しいデザート」  柴田書店

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 図書館で何気なく借りた。

 ページを開くと、気持ちが少し盛り上がった。

 それは、写真がとてもきれいで、美味しそうで、新しく見えたからだった。

 ソースを最後にかける無造作さも、少し前までは、「本場」でやっているから、といったなぞる気配があったように思っていたけれど、この本に出てくる料理は、すでにそれが自然になっているようにも感じた。そのソースをかけるときに、思いがあるとすれば「おいしくなってほしい」といった比較的素直な気持ちのように見えた。

 それでいて、エッジの効いたオブジェのようにも見える一品もあるし、コンセプチャルアートの気配がある一皿まである。

 それは、安直に世代で語ってはいけないのだけど、もしかしたら世代のことも関係あるのかもしれない。

 5人の料理人が紹介されていて、ほぼ1980年代以降生まれの人たちだった。

 どのレストランも、個人的には、行くのは(金銭的に)難しそうだったけれど、それでも食べたいと思わせるメニューばかりだった。

 

加藤順一

 

フランス料理修行で築いた堅固な土台に

ニュー・ノルディック・キュイジーヌ

自然観と科学的アプローチを重ねて、

まるで料理のようにデザートを仕立てる加藤順一氏。

アミューズからプティ・フールまで

コースの流れを自在にコントロールする手法は

「料理人がつくるデザート」は一つの理想形だ。

 

 そして、紹介されていたメニューは、16品。

 その中の一つだけ引用する。

 写真では、大きな皿に白い雪が積もり、そこに枯れ枝が添えられているように見える。そのバランスはきれいだった。

 

 ラムレーズン  

雪に包まれた森の景色を皿の上に再現する、加藤氏のスペシャリテ。モノトーンの静謐なビジュアルに反し、味わいはホワイトチョコレートのムースを液体窒素で固めたスノーパウダー、ラムレーズンのアイス、バナナのピュレなど、彩り豊か。そのギャップが驚きを生む。セルフイユをモルトパウダーやダークカカオパウダーでコーティングした「カカオの枝」の苦みが引き締め役。

 

小林里佳子

「パリの日本人パティシエール」の

 呼び声に集まる注目をよそに、

 小林里佳子氏がつくるデザートは 

 気負いがなく、小粋で、臨機応変

 日々、厨房に届く食材を見て仕立てを決め、

 リキュールやスパイスの個性を取り込んで、

 少量でもはっきりと記憶に残る味わいを生み出す。

 

 紹介されていたメニューは、10品。

 その中の一品。大きい丸が一つ、小さい丸が三つ。たたずまいが美味しそうに見える。

 

黒糖のスフレ  

焼きたて熱々のスフレはレストランならではのデザート。小林氏はここに黒糖の個性的な風味を取り入れ、スープ皿を効果的に用いた盛りつけで独創性を表現。器の角に念入りにバターをぬることが、スフレをきれいに立ち上がらせるポイントだ。器の縁にのせたのは、ラムでフランベした焼きバナナ。熱々のスフレとバナナを、別添えのひんやりした生クリームがひとつにまとめる。 

 

加藤峰子

長いイタリア生活を経て帰国した、

加藤峰子氏の見た「日本」。

そこで発見した食材、自然、文化の

「すばらしさ」と「違和感」。

それらを色鮮やかに、香り豊かに、かつ

携わる人と環境にやさしく仕立て、

現代のガストロノミーのデザートとして表現する。

 

 紹介されているのは、8品。

 その中で、まるで盆栽のように見える一品がある。

 

木々の香りとピスタチオの森 

 森から届くさまざまな樹木の葉や樹皮を用いた、加藤氏曰く「少しチャレンジングな」デザート。アイスクリームのベースにヒノキの葉と実、カヤ、クロモジ、クスノキの葉を溶かし込み、森の香りがするアイスに。樹皮をかたどったチュイルや樹液のジュレを合わせ、山林が本来持つ多様な植生を表現した。ベルガモットオイルが香る、クロモジと馬告のヨーグルトソースを添えて。 

 

浅井拓也

パティスリーの菓子とレストランのデザート、

それぞれの仕事を経験し、さらには

パリの名だたるレストランで研鑽を積んだ 

浅井拓也氏が導き出した結論は、

「レストランのデザートは、究極のスイーツ」。

グランメゾンにふさわしい非日常を演出すべく、

お客が食べるその瞬間にむけて全エネルギーを注ぐ。

 

 浅井氏は、全部で14メニュー。まるで皿に上にカカオの実が、そのまま載せられているように見える一品がある。

 

100%ショコラ

手製の型でつくったカカオポッド形の飴細工の中に、すべてがチョコレート風味のクリーム、ジュレ、シュトロイゼル、シャンティイ、キャラメル、アイスクリームを詰めた、まさに“100%ショコラ”のデザート。飴はごく薄く、スプーンで軽く叩けばパリパリっとはかなく崩れ割れるほどにする。その薄い飴のテクスチャーが、中の柔らかいパーツの数々と軽やかなコントラストを生む。

 

西尾萌美

沖縄に移り住んで、4年。

畑や工房に出かけ、時に仕事をてつだいながら 

素材の気づかれざる魅力を引き出し、

食べる人の記憶に爪痕を残すデザートをつくる。

フリーランスの立場で活動しながら、

そうしたスタイルを確立しつつある西尾萌美氏。

西尾氏自身の案内でめぐる、

沖縄の自然と食材、そして人の記録。

 

 西尾氏は、「実は沖縄に来て1年半後に不慮の事故に遭い、今は通院とリハビリ中心の生活を送」りつつ、料理に関わっている中で、紹介されているのは12品。そのうち、試行錯誤ののちの一品。

 

琉球和紅茶のリオテ   

 

コースの後、口に残った油脂分をリセットする「紅茶がゆ」。修行先であるフランスの「リオレ」と、出身地奈良の「茶粥」から考案した一品だ。試作時にはアングレーズベースのヴァニラ・アイスクリームと合わせたりもしたが、和紅茶の繊細さが消えてしまい「安易だったと反省」(西尾氏)。べにふうきの香りをストレートに生かすことを考え、熱湯抽出の紅茶液でかゆを炊き、水出し紅茶で和える手法に行き着いた。

 

 

 全60品の料理のメニューは、すべてレシピが紹介されている。