『演技と演出』 平田オリザ
演劇とは何か、みたいなことを、私自身は、演劇というものに対して未熟だとは思うけど、それでも、専門家として、真っ正面から考えている本だと思った。
すごいと思った言葉は、いくつもあった。こういうふうに部分として切り取ることがいいかどうかはわからないけれど、それでも残しておこうと思った。
伝わる人には伝わるような気もする。
心身の内面を掘り下げ分析していくこと、自由な発想で外側の世界に向かっていくこと、この二つは、明らかに矛盾する作業です。そして、この矛盾する作業を、いともたやすく行ってしまう俳優のことを、私たちは天才と呼びます。
こうして、それを実際に行うとすると、とんでもなく難しそうだけど、天才の定義を、これだけ明確に定義する人も、とても珍しいとも思った。そして、俳優の条件も、こんなふうに端的に述べている。
日常の様々な動作を、
意識して、
自由に組み合わせて、
何度でも新鮮な気持ちで演じることができる
そして、俳優が上手くなることも、こう定義している。
俳優がうまくなるのは、いい作品、いい演出家と出会って、その稽古の中で、本人が本当に研鑽を積んだときだけです。他に何か手品のような方法はありません。
同時に、注意すべき「演劇学校」についても書かれていて、これは、実はとても実用的な情報で、あまり語られないような、貴重なことかもしれない。
それは、演劇学校について、気をつけるべき点を挙げている。
規範となっているものが、絶対的に正しいとされるリーダーの感性に委ねられていないか。
(中略)
その規範以外の、演劇論、方法論を、すべて否定していないか。
そして、それは一般的なことにまで話が広がっていく。
「なんのために生きるのか」という命題と、では実際、「いかに生きるのか」という命題を、うまく両立させて生きている人は、本当に少ないと思います。しかし、私たちは、私たちの人生を演出していかなければならない。
この点において、演劇はやはり、人生に少しだけ似ています。演出するという行為は、生きるという行為と、ほんの少しだけ似ています。
演劇だけでなく、何かを人に伝える、ということを考えたい、さらには伝えようとしている人には、有用な書籍だと思います。