アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

書籍  『秘密の知識 巨匠も用いた知られざる技術の解明』 デイヴィッド・ホックニー

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『秘密の知識』(普及版) デイヴィッド・ホックニー

現代の巨匠、ホックニーが科学的、視覚的根拠により著した美術史における大胆な仮説。
カラヴァッジョ、デューラーダ・ヴィンチ、アングルなど西洋の巨匠が描いた名画やスケッチの複製など500点の図版を駆使して実証。一大センセーションを巻き起こした美術史における発見、

 これは、「amazon」での書籍の紹介の文章を引用したもので、こうした紹介は、時として、大げさではと感じることもあるが、この場合は、適切だと思えた。

 

 この書籍を読んで、過去の巨匠の作品を次に見る時、おそらくは以前と同様に、ただすごいと思えなくなり、見方が変わるような気がする。

 

アングルがなにかしらの光学機器を用いたのはまちがいないと思う。素描にはカメラ・ルシーダ、そして油彩画の精緻なディティールにはおそらくある種のカメラ・オブスクーラを利用したのだろう。それ以外に説明のつけようがあるとは思えない。しかし光学機器を用いたのはアングルが最初ではない。フェルメールはカメラ・オブスクーラを用いたとされる。光学機器に特有な効果が絵画に認められるので、そうした推論がなりたつのである。光学機器を使ったのはフェルメールが最初なのだろうか、それ以前にも使ったひとはいるのだろうか。美術書やカタログにかたはしから目を通し、証拠探しにとりかかった。するとそれまで気づかなかったことが、見えてきた。好奇心がふくらんだ。

                          (「秘密の知識」より)

 

 しかも、光学機器の使用については、ホックニーは15世紀から、と書いている。

 

突然の変化から察するに、新しい物の見方が徐々に描写法に進歩をもたらしたのではなく、原因は技術革新にあったと思われる。そして15世紀の初めにそうした革新があったことを、わたしたちは知っている。線遠近法の発明である。これによって画家は空間の奥行きを表現する方法を手に入れた。(中略)ただし線遠近法を用いて、模様のある織物の襞や、鎧の光沢を描けるわけではない。光学機器はその助けになるけれども、これまで光学に関する知識と技術の登場は遥か後のこととされていた。 

                        (「秘密の知識」より)

 

光学機器が絵を描くことはない。ただ映像、見た目をつくりだし、採寸の手だてとなるにすぎない。この点をもう一度、念を押しておきたい。何をどう描くかを心に思い描くのはやはり画家の務めであり、映像を絵具で描きとめるには、様々な技術的難題を克服する並外れた技量が求められる。とはいえ光学機器が絵画に大きな影響をおよぼし、画家がこれを用いたと気づいたときから、絵を見る目が変わってくる。ふだんは関連づけて考えることのない画家の間に、驚くような共通点を見出してはっとする。
                         (「秘密の知識」より)

 

 ホックニーは、自身の仮説を立証するために、過去の「巨匠」の作品を再検討し続け、時として、容赦のない表現もしている。
 

 情景には入念な照明が施されているが、背景とは一致しない。人物はアトリエの中にいて、背景は後から描き添えたようにも見える。

                        (「秘密の知識」より)

 

 他にも、この書籍は「普及版」ですら大型なので、ホックニーの指摘するような絵画の微妙な歪みも、納得させられてしまう気がしてくる。静物の様々な不自然さ。人物の大きすぎる肩。よく見ると変なプロポーション。確かに、ホックニーの言う通りだと思えてしまう。
 
 

わたしの立てた仮説が美術の不思議な魅力を損なうことになると考えるすべての人びとに、わたしはこう言いたい。それは思い違いである。わたしの考察は、(光学機器を使う)技術と方法の再発見を意味した。この技術と方法には、未来をより豊かにする可能性がある。 

                      (「秘密の知識」より)

 

 ホックニーは、この考察を、これからの美術のために「利用」したいというような意図があると知り、それも含めて、すごい試みだと改めて思わされた。