柔らかい色合いで、空間ができているような気がする。
入場料を払って、Mのシールを服に貼り、おみくじまで引かせてもらった。
なんだか、楽しい感じがする。
“役に立たないもの、美しいと思わないものを、家に置いてはならない”
100年以上前、イギリスの芸術家・思想家、ウィリアム・モリスはこのように言いました。その思想はイギリスからじわじわと世界中に広がり、人々が日々の暮らしに目を向ける、ひとつのきっかけとなりました。 時を超え、九州は福岡で、陶芸家・アーティストの鹿児島睦(かごしままこと、1967年ー)も、人々の暮らしをよりよいものにしようと日々励んでいます。 この展覧会は、陶芸作品を中心に、テキスタイル、版画など多彩な仕事で注目を集める鹿児島睦、初の大規模な展覧会です。会場は、動物や植物をあしらったさまざまな色や形の約200点の器が、「あさごはん」「ひるごはん」「ばんごはん」のための大きなテーブルや壁面に並びます。そのほか、ファッション、インテリア、フードなどの領域でのコラボレーションから生まれたさまざまなプロダクツや作品を、「さんぽ」「おやすみなさい」など、日々の暮らしのシチュエーションで紹介していきます。鹿児島睦とその作品を通じて、私たちの日々の暮らしと、生きていくことに思いをはせる、そんな展覧会です。(「PLAY!MUSEUM」より)
かなり広いテーマで、だけど、入り口あたりから、その期待を静かに高めるような気配は確かにあった。
会場に入る。
会場の広いテーブルの上に、こちらが勝手にイメージしている鹿児島睦の象徴である器が並ぶ。
こうして大皿や小皿やつぼのようなものまで一斉に並ぶのを直接見たのは初めてだったのだけど、その印象は、絵画がたくさんあるのに近い。そこに描かれた植物や動物は、模様というのではなく、そのまま全部がキャラクターのようだった。
特にネコなどは、明らかに「かわい」かった。
どれも、ピカピカした感じではなく、古びたというよりも、同じような意味合いだけども、ビンテージという表現が似合っていて、だから、いろいろな場所に合いそうだし、さまざまな料理を盛りつけても、違和感が少なそうだった。
器だけではなく、パッケージなどもあって、例えば千歳飴の袋は、とても魅力的だったし、テキスタイルや、何より波型のプラスチック製の屋根に使われる材料は、家の軒先にも似たようなものが使用されていて、どちらかといえば、貧乏なもののはずなのに、それらに作品の表示や説明の文字を載せたりするなど、会場の設置も、心地よくいられるような工夫があちこちにあったように思う。
何しろ、全部には気がついていないほど、さりげない気遣いのような会場になっていて、器の色付けの具合によって、その器がより美しく見えるように照明が暗い場所もあったりしたが、最後の部屋は、鹿児島睦の舞台裏、というか、雑誌で言えば、編集後記のような印象だった。
そこには、鹿児島が影響を受けたものや、娘さんの作品や、これまでの年表のようなものも並んでいた。
経歴をたどると、クリエイティブとビジネスをどのように両立させるか、といったことを考えながら、そうした環境で仕事をしてきたようだし、時には週末にはバーテンダーとなって、福岡の経済人との交流があった、といったこともあったようだから、いろいろな意味で有能な人なのだろうとも思った。
作業風景の動画もあった。
器を一枚一枚、さまざまな技法によって制作しているという説明の文章も会場に邪魔にならないように、だけど必要な人にはきちんと説明されているようなのだけど、その映像が流れている。
器をひっかいて、線を引いているけれど、その道具が歯科医が使うものだったり、傘の骨だったりするのも分かって、そして、これだけ一枚ずつ一つの個性的な作品のように仕上げていて、その器が「かわいい」のであれば、当たり前だけど人気があるのも分かるような気がする。
その上で、映像では、土という材料を使う陶器の制作現場のイスの座面が白かったし、別に昨日買ったわけでもないのに、白いままだった。
それは、考えたら、すごいことだと思ったのだけど、作業風景を撮影している映像で、器の制作が一段落し、これで、この日の作業が終了、といった動きになってからら、さらに画面の中の鹿児島氏は動き続けていた。
後片付けと掃除のためだった。
あちこちをきれいに拭き取り、イスの脚までふいていたのを見たときは、きれい好きを超えて、とにかく整っていないと嫌な人なのかもしれない、と思い、なんだか感心した。こうした動画は、通常は作品を仕上げて終わりだったせいもある。
展示を見終わり、その外のショップも、その展示の続きのようでもあって、もしもっとお金があったら、際限なく買ってしまいそうなほど、魅力的だった。
それでも、少しだけ購入して、それから、美術館のスタッフの方に写真も撮ってもらった。
ロッカーは、暗証番号を合わせて、そして開ける方式で、カギはないタイプで、それも含めて新しい感じがした。
それで、その建物を後にして、さらに、このグリーンスプリングスという場所の、いくつかのショップを見た。
だけど、本当はもっとあちこちゆっくりと見てまわりたかったけれど、時間も限られているので、そこから去った。もっとゆっくりしたかった。
こんな楽園みたいな場所が立川にできた。
それを、今日まで知らなかった。
帰ってから、「まいにち展」でもらったおみくじを開けた。
かわいい動物だった。
「鹿児島睦 まいにち」