アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「ウインター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開」。2009.5.23~7.20。原美術館。

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「ウインター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開」。2009.5.23~7.20。原美術館

 

 

2009年7月4日。

 

   たぶん1年ぶりくらいの原美術館

 当然かもしれないが、2007年の水戸芸術館での「マイクロポップ 展」と同じ松井みどりのキュレーションした展覧会。その時に「夏への扉」とあったから、今回は「ウインター・ガーデン」なのだろうか、などと思っていた。あれからの2年の間には、「リーマンショック」があった。

 受付のそばにはタカノ綾の絵。最初の部屋には落合多武のちょっとふざけたような気配もあるような作品が並んでいて、感心する。ネコが動いている映像で妻は長い時間、立ち止まっていた。その部屋が寒かったのは、八木良太の「氷のレコード」のためのようで、次の演奏が午後1時だと確認して、あと20分くらいだと思って次の部屋へ行った。

 

  杉戸洋田中功起や青木綾子といった好きな作家の中で、山本桂輔という知らない作家もあったが、微妙な重さを持った軽さ、みたいな画面がなんだかいい感じで、ここに並んでいる理由も分った気がした。チンポムの炎を使った映像の作品は時々、すごくきれいだったが、人が何か言いたくなるような感じは相変わらずあった。

 

 もう午後1時になりそうだから、最初の部屋へ戻ると10数人の人達がすでに待っていた。少したってからスタッフが来て、床に置いてある小さめの冷蔵庫(フリーザー)から丸い氷を取り出して、レコードプレーヤーに置いた。針を置いたらショパンの「別れ」のピアノの音が流れ出した。少したって同じところを回り出したら、さりげなくスタッフが針を先に進めたりして、だけど、そこにいる自分も含めた20人くらいの人が真面目な顔でそれをずっと聞いている時間がなんだかよかった。そのうちに針がメロディーを出さなくなり、氷だから、ガリガリとただ重い音になってしまってきて、おそらく5分くらいだと思うけど、それで針がどかされた。氷という言葉だけだと、溶けてしまうから、どこか勝手にはかないイメージもあるのだけど、こうしてレコードとして聴いていると、重い音によって、氷も硬い固体だというのを、思い知らされる感じもよかった。「もうミゾがなくなってしまったので」という言葉と、メロディーが出なくなった、その氷のレコードを触らせてくれて、冷たい、と観客が言っ合ったりもした。今回は、1曲だったが、この「氷のレコード」は、4曲あって、ムーンリバーや、どれも時間の流れを感じさせてくれる曲と説明してくれて、感心もしたけど、人の声がどう聞こえるか聞いてみたかった。

 

 その「氷のレコード」の演奏を聴いて、もうけっこう満足だった。

 それから、また美術館を回る。あちこちにある田中功起のビデオ作品。

 それから、工藤麻紀子の作品の、「空飛ぶさかな」の絵は、そこに描かれた子供たちの表情が微妙な気怠さが漂っていたし、なんだかよかった。泉太郎の作品は、その映像の中でのパフォーマンスは、日常的で、やってみたくなる感じもあった。

 チラシにも使用されている、佐伯洋江シャープペンシルで細かく描き込んである作品は、エヴェンゲリオンの中に出てくるようにも見えた。國方真秀未の作品は、何回か見てきたから、あ、あの人のだ、と分る気がしたし、全体として「マイクロポップ」という名前自体には、やはり微妙な違和感があるままだったのだけど、作品の統一感もあって、よかった。もっと日常的な意味合いのある言葉のほうがいいのに、と勝手に思っていた。

 

 それからカフェで食事をし、イメージケーキも食べ、一時間くらいゆっくりとした。土曜日なのにすいていて、話せて、嬉しい時間だった。なんだか穏やかな時間で、気持ちが帰ってきてからもリラックスしていた気がした。先週に見た上野(「ネオテニージャパン」)もよかったけど、あれがアルバムだとしたら、今日の方がライブ感が強い気がした。でも、両方見られて、なんだか満足だった。

 

 

 

 

『その表現の逆説は、「ウインター・ガーデン」という展覧会タイトルに込められている。「冬枯れの庭」と「温室」というふたつの正反対の意味を持つこの言葉には、厳しい時代のなか、事物を解体させた新たな生へと導く微生物の働きのように、「貧しい」素材や条件を組み換えて独特な美を創造し、人間の感覚や知的活動も、植物や鉱物と同じ生成の過程のなかにあるものと捉える、しなやかで粘り強い想像力のはたらきが表されている』。

                      (リーフレットの文章から)

 

 

 

(2009年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.haramuseum.or.jp