アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「キュンチョメ 『完璧なドーナツをつくる』 上映会」。2018.12.3~12.8 。カトリック本郷協会 レイ記念ホール。

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「キュンチョメ 『完璧なドーナツをつくる』 上映会」。2018.12.3~12.8 。カトリック本郷協会 レイ記念ホール。

 

2018年12月8日。

 気になっていたのは、岡本太郎の大賞をとった作品だけでなく、そのあとに岡本太郎記念美術館で見た作品に、いろいろな一般人が出てきて、話をするのだけど、その内容がすごく面白くて、それはたぶんその人たちを選ぶ、というのだけでなく、その話を聞く力がもしかしたら凄いのかもしれないと思っていたからだった。

 

 さらには、チンポムから色濃く続いている今の時代のドキュメントにもなっている感じが、気にもなっていて、何をするんだろう、という興味もずっと続いていた。見に行きたいと思っていたが、その作品を展示するタイミングとか、場所とかがよく分からなかったが、確か会田誠ツイッターで見つけて、どうしようかと思ったのだけど、時間を見つけて行こうと思って、最寄りの駅に着いた。トマト缶を持って来てください、という文言があったので、買うためにスーパーなどを探そうとしていたのだけど、スーパーが見当たらなくて、もう一つの“それが難しければ、生パスタなど保存がきくもの”とあったので、コンビ二に寄ったら、パスタは売っていた。

 

 教会はあまり行く機会もなく、住所を見て、地図も見て、歩いて、不安になった頃、教会が見つかった。受け付けで、パスタを出したら、2階で出してください、と言われ、階段を登ったら、待合室みたいな場所に、トマト缶とパスタが並べられていた。そこには、何人も待っていて、さらにはドーナツもあって、しばらくたったら、スタッフの方に「食べ放題ですので、どうぞ」と言われたら、自分も含めて何人もが食べた。おいしく食べられた。

 

 時間になって、扉が開いて、中へ入ると、思ったより大きめのスクリーンがあって、イスも多く、どこに座るか迷って、でも最前列があいてたので、ありがたかった。

 

 アメリカのドーナツには穴があいている。

 沖縄のサンターアンダギーと、合わせると穴がふさがって、「完璧なドーナツ」になるのでは、というプロジェクト、という言葉だけで見ると、妙にアートの内輪受けの感じに思っていた。

 

 映像が始めると、思ったのと違っていた。

 沖縄に行き、沖縄の人たちがあらわれ、話を始める。その「完璧なドーナツ」というのは、アメリカのドーナツをアメリカの人が作り、サンターアンダギーを沖縄の人が作り、それを沖縄のアメリカ基地の柵のところで、お互いの場所から、ドーナツの穴にサンダーアンダギーを入れると、「完璧なドーナツ」にしたい、という話だった。

 それは、国と国のこと。文化の違いなど、クリアすべき課題が、とてもたくさんあって、すごく難しいのではないか、とは見ているだけでも推測できた。

 

 映像には、基地移転反対で座り込んでいる人や、工事関係者や、反対運動をしている女性や、いろいろな人に話を聞きにいっている。反対の人であっても、当然ながら、ただ反対だけというのではなく、基地の軍人に対して、複雑な感情を持っていたり、工事関係者であれば、言えないことも多く、みたいなことを自然に話をしていて、そうしたことを、きちんと聞けるのは、まずは聞き手として、すごいことだと改めて思った。

 

 とても政治的な話でもあるのだけど、最後はちゃんと、最初の予定通りドーナツとサンダアンダギーを作って、基地のところで、その柵は乗り越えられないので、お互いの場所から、それぞれのお菓子を出して、合わせるところまできちんと達成した。

 

 ただ、「完璧なドーナツを作る」という造形的なことだけでなく、こうした行為を実現するまでに、どれだけの問題があるのか、ということを、自然に考えさせられたり、感じられたり、その複雑さと難しさの印象は十分に残った。

 

 上映後のホールで、その「完璧なドーナツ」を立体の作品にまでしていて、「今は3万円で売っていますが、来年はあがります」という言い方を作家本人が上映後にしていて、さらにはカンパの箱まで持っていたので、1000円を入れて、聞き手としてすごいですね、何か秘訣でも、みたいな下世話な話を聞きたかったが、他の中年男性に割りこまれて、話が長そうだったので、あきらめて、帰って来た。

 

 あとになって、何かの文章で、キュンチュメは、この話を聞く時に、すごく緊張して、人に会ったということを知った。当然ながら、自分が本当に聞きたいことを失礼がないように、といった原則を誠実に守っていたはずだった。それは、でも、こうして作品にするのは、すごいことだと改めて思った。

 

 

(2018年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.kyunchome.com