アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

齋藤恵汰&堀崎剛志「構造と表面」〜ラテックスと不動産。2019.8.2~8.11。駒込倉庫。

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齋藤恵汰&堀崎剛志「構造と表面」〜ラテックスと不動産。2019,8.2~8.11。

駒込倉庫  

 

2019年8月11日。

 

 何かのサイトで見て、駒込倉庫で展覧会をするのを知った。1度くらいしか行っていないけど、その広さや気持ち良さや企画の良さみたいな印象を思い出した。金土日のみの展覧会で、それで2週間だから、6日間のみの展示で、しかもその6日間は、ずっとトークショーがあって、それも含めて見たいと思った。

 

   齋藤恵汰は、「渋家(しぶハウス)」というシェアハウスを作品にしてしまっていて、トークも聞いたことがあり、頭がいいが、私にとっては時々、難解すぎるような印象もあったのだけど、それでも、こうした試みをすることは興味がわいた。

 

 駅から歩いて、迷って、また汗をかいて、時間に間に合わないのではないか、といったようなことを思って、あきらめかけたら、やっとギャラリーを見つけて、入って、階段を登ったら、ちょうどトークが始まるところだった。

 

  細長いスペースの、真ん中あたりに丸いテーブルが置かれていて、齋藤、木村奈緒、ユミソン。それに加えて、「このトークは聴衆も自由に話に入ってもらって、そのかわり、もし何かしらの制限が必要だったら連絡をしたいので、メールアドレスなどを教えてください」と安全な空間にする努力をしていて素晴らしいと思ったが、それが堀崎剛志で、長くアメリカ滞在のアーティストで、今回の出品作家だと知った。アメリカの災害をテーマにし、洪水で破壊された家をラテックスでかたどりして、それを別の場所で展示した作家だとも知った。そして、今回も、横浜の古い建物もかたどったりして、いろいろなものがラテックスでかたどられて、ぶらさがるように、はりつけられるように展示されていた。新鮮だったし、歩くと、ゴムのにおいがする。

 

 齋藤のトークは、ゆっくりとしたリズムで、話し言葉が書き言葉のようで、時々、難解だとも感じたが、実行委員会や任意団体の違いや、日本では任意団体で銀行口座を開けるといったことも知っているし、おそらくは経験も含めた情報力も含めて、若い頃からアートの世界で生きてきたのだろうと想像でき、やっぱり素直にすごいとも思えた。

 

 木村奈緒は、美学校出身で、あちこちの自宅みたいなところをギャラリーにしてきた人、という意識があったが、やや早口で、そして若くて、実はジャーナリズムを大学で学び、水俣病フォーラムというNPOで最初はボランティアから今は非常勤で働きながら、他にも企画をしたり、書いたりしていて、といった話を聞いて、実行して、考えて、それを続けている成果が蓄積している人だと思えた。何年か前に、大阪の福知山線脱線事故をテーマに東京での展覧会を企画した人だとも知り、それも、事故で生き残った人の一人にイラストレーターがいて、その人が事故を描いた作品を人に見せたいと思って、その人にダメ元でメールを送ったところから始まった、という話を聞いて改めて感心した。

 

 実は、続けている人ばかりが、ここにいるんだと思ったのは、失礼ながら私は知らなかったユミソンという女性アーティストが、アートをしようと思っていなくて、生きづらいみたいなことでやっていたことを、人からアートでは、と言われて続けてきた、といった話を始めてから、改めて感じた。

 東日本大震災では、谷間の温泉街で、風が吹き続けているおかげで、放射線量が少ないのに、距離的には近いから、さびれて、経済がすごく減退し、人もいなくなった街に住むようになって、そこでアートをやるようになって、2回目の展覧会で炎上もして、といった経験を淡々と、だけど正直に話し続けていて、誠実な人だと思えた。震災後であることもあって、取材なども来たが、予定調和的に、がんばろう、みたいなことばかりをのぞまれ、それが嫌で、生放送中に、打ち合わせと違うこと、「どうして答えが決められているような質問をするのですか?」といった話をしたりすると、それだけが原因か分からないが、そのうちにディレクターが二人、病気になった、という話もしていた。それは、ユミソンに責任があるというよりは、今も型通りに番組を作ろうとしすぎる人達の無理がたたっている可能性はないだろうか、などと思ってしまった。

 

 そこに集まった聴衆は、思ったよりは、年齢が高い人もいて、かなり突っ込んだ意見を言う方もいたので、豊かな時間になったし、さらにはベテランのアーティストである三田村光土里もいて、作品の解説までしてもらって、本当に考えているし、それを効果的に形にした話も聞けて、アーティストのすごさも改めて感じさせてくれて、自分も、何に対してか分からないけど、がんばろうと思えた。

 

 トークが終わってから、展示を見た。渋家は、できそうでできない効果的な方法だと、あとになってみると分かるが、何しろ始めた人はすごいと改めて思った。そのあとは、黙って、静かに帰った。最初、ちゃんと気をつければ、分かりやすい道順だったのを、駅まで歩いて、改めて知った。

 

(2019年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

 

 

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