アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「平川典俊 社会の窓」。1996.7.19~8.18。ギンザ・コマツ4F AMUSER(アミュゼ)。

f:id:artaudience:20210103115729j:plain

「平川典俊 社会の窓」。1996.7.19~8.18。ギンザ・コマツ4F AMUSER(アミュゼ)。

 

1996年7月26日。

 

 テレビ受像機が薄暗い空間の中で少し美しい距離をあけて何台も並んでいる。何もしなければ、ただそれだけのことだ。一台、一台に少しだけスポットライトが当たっている。機械をいじり、操作をすると始めて画面が動き出す。そこでは、どう見ても映されなれていない人がしゃべり始める。鑑賞する側が、名前だけを頼りに選んで話させている形になる。 

 

『日本において「現代美術」が美術館、アート・センター、ギャラリー等を通じて広く紹介されるようになるにつれ、そこに展示されている作品や美術家のみならず、それらの展覧会を企画するキュレーターに対しても強い関心を呼ぶようになっている。キュレーターは制度の秩序と美術家の提示する主体との間に存在し、それぞれの意図をくみとり、鑑賞者に対する主題を設けなくてはならない。一般に、その展覧会の主題や概念についての議論はよくなされるが、それを作り上げるキュレーター個人についてのことはあまり話題にならないようである。そこでこの「社会の窓」と題する作品では、主に日本で活躍する日本人キュレーター11人を選び、あくまでもキュレーターの個人的な視点での美術との関わりを語って貰った(1995年8月)。この作品が今まで日本であまり語られなかった美術の社会の内面を垣間みるための窓として機能する機会を持てればと思っている。』  平川典俊

 

 たぶん普通なら本にしたりする内容だろうし、それで十分かもしれないし、じっくり考えるのならその方がいい。でも、全部を見た訳ではないが、そこに出てくる人達の顔や表情や、そして話していることの理屈っぽさは活字だと何となく納得してしまったことかもしれないし、全体の感想は「こんな人たちに、美術に関する企画を任せてもいいのか?」という軽い不信感だった。

 

 アートに関しても、作り手だけに妙に厳しい環境は変わらないようだった。優れた作品が出てくる確率を高めようとするならば、作り手だけでなくそれを世の中に流通させていく途中の関係者のレベルも上げていかなくてはならないのに、この映像作品を見たら、そこが抜け落ちているように思えた。もし、世界でただ一人の天才がいたとしてもそれでは、天才になれないままに終わってしまう可能性だけが高くなる。

 

 アーティストのそんな怒りがあるようにも思えた。自分だけが感じたのかもしれないが、「こんな人たちが、例えば展覧会に誰の作品を並べるかを決めているんだよ。信じられるかい?」といった言葉が聞こえてくる気がした。

 その中で、美術評論家椹木野衣はここで見ると、個人的な感想に過ぎないが、かなり印象がよかった。それと「平川のやっていることは、美術じゃないと思う」と、言っていた福田篤夫という人物はいい意味で気になった。この2人のプロフィールをリーフレットから。

 

椹木野衣(Sawaragi Noi)

1962年埼玉県秩父市生まれ。同志社大学文学部卒業。美術評論家。「アノ ーマリー展」(レントゲン藝術研究所、東京、1992年)、「愛の部屋/長島有里枝展」(P—ハウス、東京、1995年)、「909—アノーマリー2展」(レントゲン藝術研究所、東京、1995年)、「鈴木貴博展」(ギャラリーNWハウス、東京、1995年)などの展覧会を手掛ける。著作に『シミュレーショニズム』(河出文庫、1991年)などがある。

 

 

福田篤夫(Fukuda  Atuo)

1958年北海道生まれ。名古屋芸術大学美術学部卒業後、群馬県渋川にコンセプトスペースをオープン。国内外の美術家を招聘し、展覧会を企画。また、「しぶかわ野外美術展」(1985年)「渋川現代彫刻トリエンナーレ」(1987、90、93年)を企画、実施。一連の展覧会の運営は、自らの作品製作と平行して展開している。現在、コンセプトスペース、コンセプトスペースR2を主宰。

 

 

リーフレットの最初にこんな言葉がある。

 

 

どうしてここに美術があり、

美術館があり、

展覧会があるのだろう?

そして一体誰がどういう意図で、

その美術を探して、

ここに持ってきて、 

展示するのだろう?

 

 

 この展覧会がその答の一つになっている。それも、理屈に見えて実は感情に向けての解答になっているように思える。 

 

 

 (1996年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

archive.wako-art.jp