2008年7月24日。
伊藤雅恵は、2年くらい前に、武蔵野美大の学園祭の時にアトリエで絵を見て、その次の年には文化村のギャラリーで個展をやり、今年は上野のVOCA展の佳作をとり、出世していく人って、あっという間なんだな、という気がしていた。
その一方で、これからいろいろな事を言われて、大変なのではないだろうか、という気も勝手にしていた。ああいう風な絵をお願いしますよ。と、言われそうな感じがしたせいだった。
個展の時に住所と名前を書いたので、毎回、展覧会のハガキを送ってくれる。ただの観客でコレクターの可能性もないので、後ろめたさがずっとあった。さらには、銀座の画廊で個展をやった時には、見にいった時に本人がたまたまいて、親切に話をしてくれたので、勝手に恩義に感じていた。
まだ、2、3回しか乗ったことのない大江戸線に代々木で乗った。2つ目の都庁前で降りた。警備員がけっこういる。ワンダーウォールというし、これからの若手を紹介するのだし、文化局みたいなところが主催しているのだから、すぐ分かるところに、バーンと絵が並んでいるのかと思ったら、どのエレベーターに乗ったらいいかも分からなかった。
そして、ハガキを見たら、E/Fエレベーターをお使いください、と書いてあって、エレベーターに乗って、3階で降りて、曲がって、人がほとんど通らなそうな連絡通路に行ったら、そこに絵があった。
なんだか、あまっているスペースを、あまり業務に支障がないところで、という声が聞こえてきそうな場所だった。もっと本気だったら、興味がない人でも見られるような、1階か、展望台にすべきではないか、と思った。
伊藤雅恵の作品があった。
文化村で見た時に、勘違いかもしれないが、誰かの要求に過剰に応えている気配があって、どうなるんだろう?と思っていて、でも、翌年、銀座で見た時は、完全に吹っ切れていて、すごいと思った。そうしたら、賞までとった。
だけど、今年の絵は、生意気な見方なのだけど、賞をとった、その絵をなぞっているような感じがしてしまった。とても小さくなっているような気がしてしまった。
去年の絵は、ごちゃごちゃしているけれど、エネルギーは感じた。
何か伸び悩み、みたいなものはあるのかもしれない、というか、20代前半で評価される、というのは、ものすごく周りの人間に何かを言われやすいという意味でも、今くらいが、とっても大変なのかもしれない、と勝手な事を思っていた。
私は、ムサ美のギャラリーで見た、ファイルにあった、トイレの溜まっている水の中に星を見た絵が、いいなー、と思い、こういう絵を描ける人はすごいな、と思い、こういう感覚を失わずに、そして、もっと成長したのを見たいな、と観客としての勝手な感想を思い、だから、これからどうなるんだろう、と気になっていた。
「トーキョーワンダーウォール2008」の会場にも、VOCA展のカタログが置いてあって、そこに名古屋覚という美術評論家が伊藤雅恵のページで書いていた。
長所は、明るくて華やかなこと。
短所は、悪くいえば「お花畑」で、すごみがないところ。
でも、そういう意味で「VOCA展絵画」だとも思ったので推薦した、という書き方までしていた。
「お花畑」だけだと、これからパターン化しすぎると、若いのに老けた作品にならないのだろうか、と勝手な不安要素を思った。
でも、便器の中に星を見ることが出来た人なんだから、その方向へも、もっと突き抜けてほしい、と勝手な観客としては、今も思っている。
(2008年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。