アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「毛利悠子 グレイスカイズ」。2017.12.2~2018.1.28。藤沢市アートスペース。

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「毛利悠子 グレイスカイズ」。2017.12.2~2018.1.28。

藤沢市アートスペース。

2018年1月10日。

 自らの育った土地の、その空を見ながらのぜいたくな展覧会、みたいな言葉に、単純かもしれないけれど、行く気になった。この場所は、神奈川県・辻堂の駅を降りて、新しく出来たモールを横に歩き、このモールはまだ出来たばかり、みたいな気持ちでいたけど、もうリニューアルするそうで、そういう事を知ると、また時間の流れみたいなことを思った。

 

 藤沢市アートスペース は、一度は来たギャラリーで、この前は、若さを感じる作品が並んでいて、スペースも広く、新しめできれいで、それでいて、誰もいないからゆっくりと見て、時間がゆっくりと流れていた印象があったから、また行こうと思っていた。駅から歩くと、モールが途切れ、公園があり、この前は確か週末だったから子ども連れがいて、パラダイスの感じがあったけど、今日は寒く夕方で風が吹いて、外を歩くのが微妙につらさがあるので、公園に誰もいなかったけど、目指すビルは子ども向けの施設があるので、そこだけ妙ににぎわっているし、一階にボルダリングがあるのも初めて知ったし、ただ淡々とエレベーターに乗って6階で降りる。

 

 今日も、ほとんど人がいない。

 初めてのアーティスト。日産アワードでも受賞したらしいから、もういろいろな人に知られているような人のようだ。チラシは、かっこよかったし、グレイスカイズ、という個展名も、そのステートメントも、藤沢に住んでいた若い頃、何も分かっていなくて、白も黒も分からなくて、そして、灰色の風景をみていた、みたいな言葉が、すごく共感を呼ぶような内容だった。

 

 最初は映像の作品。

 タイトルは、Everything Flows.

 波打ち際の映像が傾けられたジョッキに映されると、ビールがこぼれでているように、見える。

 

 そのあとの部屋では楕円のスクリーンに、映像。それも、藤沢、ニューヨーク、台北、ベルリン、ロンドン、ヒューストンなど、各地の風景が淡々と映され、それは、観光地でもなく、道端から見えるような、個人的な感覚に訴えかけるような映像が映し出され、それは、ああ世界はこんな風かもしれないけど、同じ場所に行っても、もうこのささやかな光景はないだろうし、同じ場所にいても、同じところは見られないだろうから、もしかしたら、自分では見ることが不可能な光景が移り変わっていて、そして、ずっと見ていたら約20分くらいたって、一通り見ることが出来た。時間に関しての気持ちの持ち方が、少し変わったかもしれない。タイトルは、「万物は流転する」ということみたいだが、見ている側は、諸行無常を感じて、まるで自分が幽霊になって、世の中を見ているような気持ちになれた。外側の視点ということかもしれない。

 

 そのあとは、「パレード」。

 旧名は、「大船フラワーセンター」だから、自分が幼稚園の頃から行っていたような場所だから、それだけで、勝手なノスタルジーな気持ちになれるのは、最近疲れているのと、年をとったせいかもしれないが、壁紙によって、そこにある楽器や風船やいろいろな音が出るものよって自動演奏されている。意図がない、ということらしいが、どうして大船フラワーセンターなのだろう、とは思った。

 

 次の部屋を全部使った作品「モレモレ:ヴァリエーションズ」。

 水を使っている。水を受けとめて、流して、それがまた上に回って、循環しているのは分かる。その途中のホースに鈴をつけたりして、それでタイコをたたいたりもしている。

 

 作家は、東京の駅構内で見かける水漏れ現場に着目し、その対処方法を写真にとって、その水漏れを何とかしようとすることを、様々な日常的な用具を使って、再現するような作品らしい。そういうことを知ると、駅のそういう場面をぼんやりと思い出し、水がたれている場所とかの記憶が少しわいてきて、それは、でも、最初の諸行無常の気持ちみたいにはなったが、その展示室の広い窓の向こうに夕焼けの空が大きく見えて、影になっているのは、たぶん丹沢山系で、なんだかぜいたくな気持ちになれた。

 

 エレベーターを降りて、外へ出たら、さらに夕暮れがすすんでいて、空の下がだいだいで、その上が紺色になっているが、その色合いのバランスや色味が、ホントに浮世絵と似ていた、というより、これを再現したんだ、と思えて、それも含めて、豊かな時間になって、なんだか気持ちはすこし嬉しくなった。

 

 そういえば、この個展のために、詩人が詩をかいていて、それがグレイ スカイズのための詩集もあって、それも含めて、なんだか得をしたような気持ちにもなった。ありがたい。

 

(2018年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.city.fujisawa.kanagawa.jp