2009年4月8日。
この日は久々の村上隆のトークショーなので、出かけることにした。ちょっと前に、青山ブックセンターで確か佐藤可士和氏とトークショーをやったらしいが、それには行けなかったので、やっぱり見に行こうと思った。
広尾、というオシャレな街で、そういう場所は今だにどこか引け目を感じるけれど、アートに興味を持つようになってから、あまり感じなくなり、有栖川公園と平行するようなゆるやかな坂道を登ると、坂を登り切ると、落ち着いた建物のサンクスがあって、そこで夜の7時から始まるので、その前に少し食べておこうと思い、カレーパンと小さいチョコを買って、ついでにトイレを借りたら、そこはオートロックで店員さんが走ってついてきて、開けてくれる。
ギャラリーはそこから近かった。マンションの地下へ降りるとこぎれいな空間だった。作品の「イノチ」本体は、今日のトークショーのためにしまわれていて、見られなかった。
でも、コマーシャルやその制作風景の映像やポスターは、違和感がないくらい、つまり、本当にテレビで流れたりするんじゃないか、と思えるくらいの自然な完成度の高さだった。逆にいえば、普段、目にしているものも、とんでもなくお金と手間がかかっている、という事で、それを見慣れているので、よっぽどのものを出さないと人は見てくれなくなっている、という事になっているのかもしれない、と思った。
イノチのフィギュアは約15万円。コンピューターとほぼいっしょの値段。もう少しお金があって、家にスペースがあったら、思わず買ってしまいそうな作品だった。
5時半すぎに着いたので、そして、6時30分になってから並んでください、と言われたので、まだ6時前だし、いったん外へ出た。そばの有栖川公園の中に入り、ベンチに座ってカレーパンを食べた。周りに誰もいない。上は、大きい木の枝が屋根みたいになっていて、それが風でゆっくりと全体をゆするように動いている。
少し薄暗くなって来て、6時10分ぐらいになったので、またギャラリーへ戻る。午後7時5分くらいに村上隆が登場すると、拍手が起こり、こんなに来てくれると思いませんでした、と言い、振り返ると、ホントにびっちりと人がいて、あとから160人くらいだと知った。なにかのラインを越えて、もう実力や実績にふさわしい人気といっていいものがやってきたのかもしれない。
壇上には、2人の広告関係者と村上隆。広告関係者は、水口克夫(アートディレクター)、権八成裕(CMプランナー)。
最初に村上隆が話し始めて、その時に、アメリカへ行って思ったのは、けっこう分かっているつもりだったけど、想像以上に違う、という事を語っていて、それこそが、その体での理解具合が、日本の美術関係者との違いとなり、ギャップを生み、非難される原因かもしれない、などと思った。
そして、リーフレットのあさのあつひこ氏の文章に触れ、これがおもしろかったし、当たっていると村上本人が語ったり、それから、広告業界の人は、ものすごく働く、という事と、ここにいる2人は、見る側の個人的な感想だけど、変なすれ方をしていないように見え、ギョーカイ慣れみたいなものがないんだ、というような事を一方的に分かった気になり、なんだかホッとした。
1時間ちょっと。久しぶりに、こういう場所へ来て、そして来てよかった、と思った。ただ、イノチの本体を見に来ないと、とも思った。
(2009年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。