2020年1月13日。。
このギャラリーは、大げさな言葉を使いたくはないけれど、自分にとっては特別な場所だった。
2011年に、マクドナルドも撤退してしまうような町に住んでいて、この先は衰退しかないのではないか、と思っていたのだけど、そこに突然現れたのが、このギャラリーだった。
家から歩いて行けるギャラリーはありがたいし、そこで食べられる食事も、オーナーが作ってくれるのだけど、とてもおいしく、作品を見ながらだったから、とても豊かな時間だった。
約7年、地元にあって、ほぼ毎回、展覧会に行った。
複数回、見に行くことがほとんどで、それは体験でもあったので、あまり記録もとらず、そこにいることに集中していた。
それは、いつでも行ける、という油断もあったのだと思う。
オーナーは、フクマカズエ氏で、確か美大出身でもなく、ギャラリー勤務の経験もないはずなのに、最初はカメラ屋、次は古書店になっていて、長く、空き家だった古い木造の建物をリノベーションして、内部にはツリーハウスがあるようなギャラリー空間にしていた。
すごく新鮮で、地元に、こんな文化が来ることが信じられなかった時間が、しばらく続いた。
こうしたカフェもあるギャラリーは、だんだんと貸し画廊のように、スペースを有料で貸したり、カフェ機能を重視することで運営していくイメージがあったのだけど、ここは、違っていた。
カフェ機能を縮小し、ギャラリーは、オーナーによる企画展が続き、入場料もとるようになった。美術作品に集中するような空間になっていった。
ここに来るときは、オーナーの志に触れるような側面もあった。地元にある気楽さとともに、微妙な緊張感も常にあって、それは作品だけでなく、オーナーの美術やアートに対する姿勢から発しているようなものだったけれど、それは、心地よくもあった。
とても豊かな時間だったけれど、移転して、地元からなくなったのが、2018年で、2019年には、今の場所(戸越公園)で再スタートした。
電車を乗り継がなくてはいけないし、勝手なものだけど、通う頻度は明らかに減ってしまった。
それでも、行くと、いつも穏やかに迎えてくれるし、志の気配は保っているので、微妙な緊張感もある。
すごくありがたいことだった。
今回の作家・浅野暢晴は、以前、私の地元にギャラリーがあった時にも個展をやった人だった、焼き物を使って不思議な生き物のような立体物を作っていて、そして、糸をつける作業をした記憶もかすかにあって、その人が、戸越公園にギャラリーが移ってから、また個展をやると知った。
そして、その確か2年間の間に、作品を小さめにして、そして、人の家にお邪魔するという形での作品展示の方法をとっていて、それがトリックスターと名付けられて、ツイッターで話題になっていたらしい。
焼き物を使った重さとか、もろさとか、いろいろな静かな感じもあって、それに加えて、すごく小さい作品もあって、それは、普及みたいなことを考えて制作したらしい。さらにオーナーが話してくれたのは、今回の展覧会の初日と2日目のことで、SNSで話題になり、作品を所持している人も来て、それに追加するように購入する人などが、一気に押し寄せて、その時の写真を見せてくれたら、このギャラリーが人でうまっていて、こんなに人がくることは、失礼だけど、初めて見たような気がした。
ただ、オーナーが話してくれたのは、押し寄せるように人が来ても、作品を大事にしている人たちが来て、購入していって、ということや、売れたことで新しく追加した作品が、SNSにあがり、その映像を見たファンからの「欲しい」という遠方からの連絡が来た。それに応えた別のファンが購入して、それも数万円なのに、どうやらちゃんと送って、欲しかった人が手に入れたというエピソードも聞いた。
今、こんなに人が集まっても、作家とファンが、幸福な関係にあると思った。こんなことがあるんだ、と感じた。温かい気持ちになった。
(2020年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。