アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

滝口悠生×柴崎友香。2017.7.25。SCOOL。

滝口悠生×柴崎友香。2017.7.25。SCOOL。

https://scool.jp/event/20170725/

 

2017年7月25日。

 佐々木敦氏の主催する?スクールと言うか、イベント空間というか、そんな場所らしく、名前だけはすこし聞いたことがあったが、初めて行こうと思ったのは、柴崎友香が登場するトークショーだったからだ。三鷹駅で降りて歩いて、どこに目的の場所があるのか、もう間に合わないのではないか、という頃に目的のビルがあった。すぐ前を歩く若い男性と女性の3人が、そのトークショーの話をしている。狭いエレベーターでちょっとぎゅうぎゅう。6階につくと、思ったよりも広い、というか、ここにこんな場所があるのか、というようなホワイトキューブみたいな空間。ワンドリンクは迷ってコーラにして、イベント料1500円と300円を払う。イスに座る。50人くらいは来ていると思うけれど、それはすごいことだと思い、前のスペースの机の上には本があって、買おうかどうしようか、でも、お金はないし、といった気持ちで、静かに座っているのに揺れ動く。

 

 2人が静かにあらわれる。

 両者ともに芥川賞作家で、もっとそのことに価値を置く人から見たら、さらに違う見方になるのだろうけど、でも、そんなにたくさん読んでないから、ちゃんとしたファンともいえないのだけど、柴崎友香は、時々、目の前が開けるほど、その場所に連れて行ってくれるような、すごい作家で、それも、どうしてこんな風に書けるのだろうと驚きと、すこしでも書きたいと思っている人間にとっては何かを、やっぱりすごい人は最初からすごくて、質が違うとあきらめさせてしまうような、そんな力をもっている人のひとりだから、見るのも恐い感じもあった。だけど、そんなに表に出てこない人だから、行こうと思って、あらわれた姿を見て、特徴があんまりなくて、その上ニュートラルな存在だと思えた。それでも、よせつけない感じや、40歳を超えているのだけど、ほっぺたがぴかぴかしていて、年齢が分かりにくい気配とか、微妙な異質感はあちこちから漂っていて、そして、話を始めると、また気配が変って、話題が変ると、また違った気配になる。ベージュの薄いコート。下は黒いシャツ。下は、ウオーミングアップに使うようなビニール製のズボン。ナイキのスポーツサンダル。黒い5本指の、でも先があいている靴下。この人は、どこにでも溶け込める忍者なのかと思った。

 

 柴崎の話し方には、迷いがない。机に置かれた対談相手の本には、ふせんが貼ってあるが、1冊につき、10枚以下で、きれいにぴしっとはってあって、それはすごみが伝わってくると思えるのは気のせいかもしれないが。

 断片的だけど、こんな言葉があった。

 

——小説は、全部、伝聞ではないか

——◯◯が、小説家の仕事は、体験していないことを思い出すことだ、と言っていて、それには、本当だなあ、と。

——キッチリとした人間関係は出来なくて、何となく名前しらないで、つきあっていたり…。

——(対談の最初に、滝口が自転車がなくなって、突然あらわれた話をしていたが、それから1時間くらいたって、急に話を始める)あれ、答えがあって、1秒ごとに世界は新しく作り直されている。そのちっちゃいおっさんが、忘れてた。

——ある人を思い出して、その人がその何年か前に亡くなっていたことを知って、その間の記憶って何だろう、って。そんなことを何度も考えたりしている。

——過去にたどりつくときに、順番にここを通らないと、たどりつけない、ってことがある。それが何度も同じことを繰り返しているようにも見えることがあるのでは

——時間の未整理

——時々、これを誰が言っているか分からない、分かりにくい、みたいなことを言われることもあるけど、誰がしゃべっていても、いいんじゃないか、って。誰かがこれを言っているかどうかだから。

——渋谷のスクランブル交差点に、外国人がすごく撮影したりしてい

るから、あのごちゃごちゃしたおもしろさがあるんだと思う。あそこには。

——400枚以上書くと、違う筋肉を使うから、書いたほうがいい。って高橋源一郎さんに対談で言われた。ほんとだと思う。

 

 質問しそこなって、サインをもらった時に柴崎氏に聞いた。

 ここのところ思想家系の人の話を聞く機会の方が多かったけど、彼らのほうが熱量が高く、今日はすごく冷静だったので、そのことが気になって、聞いた。

 

 作品との距離感があるように、冷静だと思ったのですが、最初から、あんな風だったのですか。

——そうですね。そんな感じですね。

 書いている時は?登場人物との距離の感じは?

——同じ居酒屋にいたとして、同じテーブルではないですね。少し遠くから見てる、っていう感じですね。

 

 なんだかすごいと思った。

 自己顕示欲との、折り合いとかも聞きたかったけど、そんなことを聞けなかったのは、そういったことはもう関係ないし、最初から関係ないのでは、と思わせるものがあったせいだとも思う。

 今日の二人の話は、うまい文章とか、うける書き方とか、そんなことではなく、それも大事かもしれないけど、書くことでどこまで行けるか、という達人の挑戦とか、志の話だった。

 すごいことだと思った。

 

 

 

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