アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

書籍 『現代アートとは何か』 小崎哲哉  

現代アートとは何か』 小崎哲哉 

 

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 バランスがいい本だと思う。現代アートに関する要素、これだけの幅を、比較的、遠慮なく書ける(ように見える)人は、こういう立場しか無理なのかもしれない。カルチャーウェブマガジン「REAL KYOTO」発行人 編集長。「ART IT」を創刊した人。

 

 Ⅰ マーケット 

 Ⅱ ミュージアム  

 Ⅲ クリティック (批評) 

 Ⅳ キュレーター

 Ⅴ アーティスト(アート史の参照は必要か) 

 Ⅵ オーディエンス 

 Ⅶ 現代アートの動機

 

 この要素に分けて論じられているから、現代アートの全体が見やすい。

 

現代アートを知りたいと思ったら、まずヴェネツィアビエンナーレを観に行けばよい」とよく言われる。 

ビエンナーレのプレビューに集まる一群の紳士と淑女は(中略)現代アートの価値を決めている特権階級なのだ。

その上で、どうして、現代アートのジャーナリストの追求が甘いのか、という指摘につながる。

いかなるアーティストも、グローバル資本主義と癒着したアートワールドに棲みついている、いわば同じ穴のムジナであり、そのことをジャーナリストたちが知っているからだ。
 
 そして、日本国内でアートを見ているだけでは決して見えない億万長者の関わりや、大物アーティスト同士の闘争なども垣間見ることもできる。
 
 
 さらに、改めて、現代アートの始まりについての言及もある。
 
 2017年に、あるアンケートがとられ、「最も強い影響力を持った20世紀のアート作品」。第一位。デュシャンの「泉」。得票率64パーセント、という事実の提示があって、それは読者にとっても納得がいくことだった。
 
 そこから、現代アートが始まったのは間違いないと思うからだ。
 

デュシャンレディメイドは、後の(20世紀半ば以降の)アートのありようを決定的に変革した。 

 それから、100年以上をかけてアートは変わっていった。

いまやアートは生産するものではなく、選択・判断・命名による真摯な知的活動となった。それがゆえに、現代アートはコンセプチュアルなのである。世間の人々の多くに不幸にもそのように見なされているにもかかわらず、アートはもはや高価な装飾などではない。

 

 これまで、「現代アートは難しいと言われがちですが」という前置きで、様々な説明を聞いてきた記憶もあったが、この著者の「現代アートの3大要素」の方が、分かりやすく感じた。

 

僕なりにこれを言い換えると「インパクト、コンセプト、レイヤーが、現代アートの3大要素。

 
 現代アートはもはや「美」を志向していない。
 
 さらには、創作の動機も分析されている。
 

 ◎現代アートの作家が抱く創作の動機は、大別して7種ある。

 「新しい視覚・感覚の追求」「メディウムと知覚の探究」「制度への言及と異議」「アクチュアリティと政治」「思想・哲学・科学・世界認識」「私と世界・記憶・歴史・共同体」「エロス・タナトス・聖性」。

 その上で、こうしたことまで指摘している。

評価の精度を上げるには、見聞を広め、知識を増やし、人生経験を深めるのが唯一無二の方法である。 
 

  最終的には、こうした言葉もあった。

日本のアートシーンにおける問題は、ほとんどが情報や知識の欠如に起因する。

 

 現代アートを考えるためには、必読の一冊だと思った。

 

 

 

 

『ACROSS』 小崎哲哉 インタビュー

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