スタジオ
三島喜美代の常設の作品だけではなく、この施設の上階にある「スタジオ」を見学することもできる。ここは、かなりの数のスタジオがあって、そこはアーティストに貸与されている。そして、そこは普通に考えれば、かなりの低額らしい。そして、こういうシステムは、アーティストを育てるためには必要だと思えた。それが地元の大田区にあるのは、ちょっと嬉しいが、これまで知らなくて、やっぱり恥ずかしい。
さとうくみ子
https://www.artfactory-j.com/studio/artist/detail/kumiko-sato/
20名ほどのツアー参加者と一緒に、代わりばんこにそのスタジオに入って、作品を見て、今回の「アートスポット巡り」のガイドをつとめてくれているアーティストの青山悟氏がいろいろと聞いて、それに答えるという時間も過ぎる。
だから、そこにある作品が、古くは吉田戦車の、不条理ギャグなどと言われた世界を立体化したような作品。そして、それは、持ち運びができるように、という工夫があって、それがさらに実用という要素が入ることによって、作品を魅力的にしているようだった。
https://www.artfactory-j.com/studio/artist/detail/yuna-ogino/
荻野夕奈のスタジオ。これまで描いた作品。今、制作中の絵画が並んでいる。それについて、青山氏がいろいろと聞いて、偶然を生かすことなどを話し、それは、絵画特有のことではないかといった話題になり、とても興味深かった。
まだ時間もあるようだったので、絵画を作品にしている人にいつも疑問に思っていることを聞いたら、答えてくれた。アートの中でも絵画は歴史も長く、偉大な画家も多い。その中で、自分が描いていく必然性や、あとは影響を受けることについて、だった。最初は、色々と影響も受けたし、歴史のようなものも考えた。だけど、描き続けてきたことによって、そのあたりは、あまり考えなくなり、目の前で描いていることに集中できるようになってきた、といった答えを誠実に話をしてくれた。
確かに、そこに並んでいる作品は、最新作に近づくほど、画面全体に確信が満ちているように見えてからだった。それでも、改めて絵画の不思議さや、歴史の長さによる豊かさのようなことまで考えさせてくれた。
中野美涼
https://www.artfactory-j.com/studio/artist/detail/misuzu-nakano/
中野美涼は、とても細かく描き続けていた。スタジオの外から見た時より、そばに寄ってメガネをかけて見れば見るほど、とても細かく描き続けている。それは、青山氏の質問によって、働きながら描き続けている、という状況を前提に、3年、という年月をあげる。
それはやっぱりすごいことで、それでも、まだ完成していないと思っているらしい。
なんだかすごい。そして、細かさを突き止めようとすると、それは、本当に際限がなくて、そして、この方法を選択するようなことに、本人の必然性がないと、ただの苦行になってしまう可能性すらある。
https://www.artfactory-j.com/studio/artist/detail/manami-hayasaki/
早崎真奈美。切り絵にも見えるのだけど、ただ完成度を上げていく工芸品ではなく、曖昧な境目としてのオブジェ、として制作している、という。だから、絵画のような、物質のような、微妙な感じを出すようにしているように思えた。
完成度だけを求めていくのも、大変なことだと思うけれど、そうしたシンプルな方向ではなくて、他にも意味を込めるというか、そういうのをどうしていくのだろう、みたいなことを思った。
なんだか、不思議な気持ちにもなる。
https://www.artfactory-j.com/studio/artist/detail/misato-nonaka/
野中美里。色がきれいだった。それは風景なのだけど、いろいろな場所や時間も重ねている、というのに、そういう重層感というよりも、軽みのようなものを感じた。風景画というのは、それこそ、すごく長い歴史があるのに、見ていると、これまでのものとは違って、どうして新しく見えるのだろう。どうして、色が、これだけ出るのだろう。それに、作家が20代のせいだけではなく、作品が若く見えた。
完成した作品を見ると、すごく一気に書いたように思える。だけど、作家本人に聞くと、すごく時間がかかるし、ペイティングの作業そのもののも早くない。そんなことを言っていたのだけど、思いをそのまま形にしたように思えるから、そんなスピード感を勝手に感じているのだろう。
https://koca.jp/member/yochiya-畑中庸一郎、川名八千世/
そこから、またエレベーターに乗って、1階に降りて、隣の建物に向かう。別館という言葉が聞こえたような気もしたが、とにかく人のあとについていくと、そこは、炎を使って、金属を加工する女性がいた。川名八千代。そこでは、何を製作しているのか、いまいちよく分からなかったけれど、それは、ユニットを組んで作品を作っていて、その成果を後で見て、少しわかることになる。
その、とても温度が高くて大変そうな場所から、上階に上がる。
https://www.artfactory-j.com/studio/artist/detail/tsuguto-toma/
當眞 嗣人。木工というジャンルになると思うのだけど、見たことがないような素材だったり、不思議な手触りだったりもしていて、新鮮だった。さらに、詩人でもあることを知った。そこには、同人誌まで並んでいた。
そこから、また作業をしている作家のスタジオがいく。何をしているのか、最初は分からなかったけれど、話だけでなく、ガイドの青山氏の促しもあったせいか、作業の続きをしてくれた。一度プラモデルの飛行機などを完成させ、その上で、その機体に穴を開けていき、結果として見たことがないような物体になっていく。
いろいろと話をしている作家・大野公士は、プロフィールを見ると、50歳を超えているのだけど、ここまでスタジオを訪れて話を聞いた作家の人たちと同様に真っ直ぐに相手を見て、その目はかなり澄んでいるように見えて、詳しい事情を知らないから、表面的なことかもしれないけれど、なんだか改めて作品を作るアーティストはすごいし、こういうことが仕事になれば本当にいいなとも思った。それは、とても素朴すぎるのだけど、結局は、できるだけウソなく生きれれば気持ちもいいはずだという自分の思い込みなのかもしれない。
これで、この場所のスケジュールは終わりだった。
これだけで、かなり充実していたけれど、青山氏が、手作業をきちんとしようとする人が多いのでは、という感想を漏らしていたが、こうして、さまざまなものがバーチャルなものでも可能になっているから、もしかしたら、今後も、手作業というものが保証する何かは、残り続けるのかもしれない。
次の場所へは、またバスに乗る。