アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「低温火傷」MOTアニュアル2000 。2000.1.18~3.26 。東京都現代美術館。

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低温火傷MOTアニュアル2000 。2000.1.18~3.26 。

東京都現代美術館

 

2000年3月25日。

 

 見る前は、おもしろそうだとはいっても、企画の意欲はあるとしても、どこかで少し力み過ぎだったり、少し上滑りになるんじゃないか?との不安があった。

 

 最初の部屋に、平川典俊の作品。銀座で様々な美術関係者のインタビューを見ることの出来るテレビ画面のようなものが並んでいる昨日を見て、それ以来、気になっていた作家だった。写真の並ぶ壁面。自殺者が最後に見たと思われる風景。と解説がパンフレットに書いてある。すると、普通の海の光景や屋上から見たような地面が、もう普通の写真に見えない。

 

 そして、全体を見終って、印象に残ったのは、木村太陽とホンマタカシだった。

 ホンマタカシは、すでに有名な写真家だった。対象を肯定するでもなく、批判するのでもなく、突き放したような視点で写真を取っていると言われていることは知っていた。展示の最後のコーナーに彼の写真が並んでいる。都市郊外のニュータウンの風景をクールに撮影している。というキャッチフレーズがよく分かる。それと並んでそういう所に住んでいると思われる子供達の写真。警戒心のとれない表情。確かにそういうのがリアルで、この時代に受けるのもよく分かる気がする。今回の展覧会の中で、重要な作家であることに間違いはない。

 

 そして、木村太陽。壁に並んでいる立体。太ったおたくといわれているような人の体の、リアルな再現のように見える。コンビニのレシートなどがゴミのように散らばっている。ジャージには、うんこや小便で汚れたと思われる濡れた後。ブルータスの記事では、痴呆老人のことを思い出さずにいられない。という表現もあって、そういう見方もできるんだ。と感じつつ、どっちにしろ強いインパクトがあるんだ、と改めて思う。

 

 1台のテレビが狭いコーナーの隅にある。狭い方向に画面が向いているから、多くて5〜6人が肩を寄せ合って見るのが限界。だから、そのテレビで何をやっているかは、待っている時は見えないし、でも15分くらい上映しているのに誰も立ち去らない、それなのに誰もおもしろそうな表情をしてない。だから、内容の推測が難しかった。妻と二人で20分以上待って、順番が来る。

 画面では作家本人がビニールをかぶって呼吸の限界までやってみるという場面から始まった。その後もたくさんあるイヤホンを口に入れて電話でしゃべってみたり、カレーライスで顔を洗ってみたり、ゴミ袋に入って足だけだしてみたり、二つのコップに入ったジュースを水道管の蛇口だけを口ですって移動させてみたり、こう書いていても、「くだらない」と言いたくなるようなことでしかないのに、でもその画面を見ている時は、少し笑えたり、その行動を書くだけとは、何か決定的なズレがあって、それはやってみないと分からないといった種類のもので、木村太陽はすごいと素直に思えた。そして、その会場の壁に書かれた自分のイメージをイラスト入りで日記のように細かく書かれたもの。これをもとに、作品を作っているんだろうな。と思えるもの。どれも、感情の微妙な部分を刺激してくれるものばかりだった。

 来てよかったと、思った。

 

 たぶん、ホンマタカシと木村太陽の二人同時に好きな人間は少なそうだと感じた。最後の部屋にノートが置いてあって、それは何冊にもなって、どの文章も熱さが十分にある。そして、その推測はかなり当たっていたようだった。

 

 そして、この二人に関する文章が多くて、そして、感じたことはそれほど変わらないんだと思って、何か安心するものもあった。若い人が大多数のようだったが、その中で、少し年令がいってると思われる人の中で、二つの言葉が印象に残った。「ホンマさんは、性格が悪そうやね。というか、相当したたかやね。そのうちに絶対にインタビューしにいくから」といった文章。でも名前を書いてなかった。それから「ニュータウンや団地はこれまでの伝統や自然を壊すというような言い方ね」と、ホンマタカシに対して、というよりも、みんな似たような表現をすると、やんわりと文句を言っているような住宅公社(?)に勤めてるという人。こんなに多くの人が、文章を書いているのは意外で、でも何か嬉しく、来て、良かったと思えた。

 

 ノートの中にこの展覧会のカタログのデザイナーの文章があって、この表紙にはギミックがあります。という言葉が気になって、ショップで見てみたら、表紙の「低温火傷」という文字が温度で色が変わったりして、それを見て、妻も買おうと言ったし、私も欲しくて、購入した。

来年以降の、このアニュアルがあるとしたら、楽しみになった。

 

(2000年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.mot-art-museum.jp