アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「リュック・タイマンス展」。2000.10.22~12.28。東京オペラシティアートギャラリー。

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「リュック・タイマンス展」。2000.10.22~12.28。

東京オペラシティアートギャラリー

 

2000年11月22日。

 

 どう見ても不吉な絵。ざわざわした感触。その幸福からは遠そうなざらざらした感じが、とてもリアルで、本当に今そこという雰囲気がある。ワコウオブアートで見たのが、この前年。そして、今年、ここで日本では初めての本格的な個展。どの絵を見ても、気持ちが高揚することはない。ただ頑なでもなく、静かとも違う。冷静さを取り戻すといったらいいか。

 

 何かの模型を作り、それをポラロイド写真で撮り、その画面の暗さや粗さをかなり忠実に再現しているのを、今回はその写真も同時に公開しているので改めて分った。もっと想像に頼っていたかと思ったので、少し意外でもあった。何で、どれも同じようなトーンに見えるんだろうか。ただ、暗いとか重いとかではなく、神経に直接さわってくる質感⋯でもリアルで、ものすごく身近さを感じる。

 

 人間の顔を描く時も、医学書に病気の説明のために撮られた写真を元にして、それを肖像画のように描いている。感情移入を頑に拒絶しようとして、でもそれは人間が描く以上100パーセントは無理としても、可能な限り距離をとって描こうとしている。でも、それはもっと距離をとろうとしているように見えるリヒターとくらべると、とても人間的な感じは強い。タイマンスは、その距離の分だけ、寒々しさだけでなく、見ている方にも不安感が増し、そのことで現実感が薄れ、でもそれが今のリアルにつながっている。

 

  とても頭のいい人、とは思う。リヒターを思い出したりする。アートの世界では絵画は古くなったとか、いろいろと言われているらしいが、人間である以上、それはなくならないんでは、という気もしてくる。なんで、こんなに平面に引き付けられるのか、そんなことを見た後に改めて思ったりするが、見ている時は、その冷たい空気みたいなものを突き付けられて、あまりその絵のこと以外は何も考えられない。なんだか、すごい。

 

 でも、さらに考えると、この人は自分が見たように、再現したいだけなのかもしれない、と思ったりもする。世の中の見え方は、その時代によって、思った以上に違っているのかもしれない。

 

(2000年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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