アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

CHERRY個展 「あたらしい保健体育」。2019.6.16~6.30。Space 408302。

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CHERRY個展 「あたらしい保健体育」。2019.6.16~6.30。

Space 408302。

 

2019年6月28日。

 会田誠氏のツイッターで、この作家を知り、個展を開くのも知った。新たなセックス、下着をください、といった気になるワードが並んでいて、そして、美学校卒業生で、しかも若いということも知り、それに加えて、「パーフェクトラバーズ」に感動して、みたいなコメントまであった。フェリックス・ゴンザレス=トレスの、あの作品はすごい、と思った作品なので、それで行くことにした。

 

 できたら、あまり混んでない時に行きたかった。それでも、下着を手洗いしたり、違う人のをはいたりしたいと思ったのは、そういう経験をしたことがないから、やってみたいとは思って、どの下着を持っていこうかと思った時に、新しいのはもったいないけど、最近、ぱっくりお尻が割れてしまったトランクスはやめようと思って、それでも、これならいいかな、人にはいてもらってもいいかな、というパンツを選んで、行く機会に備えていた。

 

 金曜日に、渋谷に向かう。作家のツイッターに渋谷からの行き方と、入り口付近の写真もあったので、まったく行ったことがないような場所なのに、迷わずに行けた。午後5時前。次の予定が午後7時だから、混んでいたら、間に合わないかも、といった焦りもあって、さらには、着ているTシャツがかなり汗をかいて、背中が重くなって、着替えたいとも思っていて、入ったことがない建物に入って、狭いエレベーターに乗って、ゆっくりと4階に着いた。

 

 普通のドア。ちょっとノックをして、あけたら、薄暗く、本当に風俗みたいな気配だった。受け付けに若い女性。ループで流れているビデオには、新しいセックス、というタイトルがついて、作者らしい男性と若い女性が、女性の下着を洗っている。少し気持ちが妙な感じにはなるが、それよりもすごく丁寧に手洗いしていると感心するような気持ちにはなった。

 

 そして、参加協力のお願い、という紙も渡されたが暗くて読めず、それを伝えると受け付けの女性がスマホの明かりを貸してくれた。こういう時は、いつも申し訳ない気持ちにはなる。文章が丁寧で、それも含めて、参加します、と伝える。

 

 向こう側に待ち合わせ用のイスが10個くらい並べてあって、こんなに来るのか、という思いと、カーテンがあって、その場所は見えないが、奥から作家が顔を出す。先に待っていたのは、若い女性だから、その方にゆずる。ビデオを見ていて、見終わって、参加しますか?とまた聞かれて、受け付けの女性が違う人に代わっているのに気づき、再び参加表明をして、カーテンを背にしてイスに座って、待っていると、女性と作家の、親密そうな会話とうふふふふ、といった笑い声が聞こえてくる。

 

 手順を伝える作家の言葉。答える観客。終わってから、先に参加した女性が出てきて、何度も頭をさげ、ドアをしめるときも、頭を下げ、丁寧なあいさつをして、去って行った。あれこれの水音。支度をする気配。思ったよりも、時間がたってから呼ばれる。ちょっとドキドキはしている。

 

 入って、あいさつをして、自然にふるまっている作家から、これを替えに、と渡されたのは、女性用の下着だった。考えたら異性の下着のほうが、いろいろなことを感じられるから、作品としては正しいのだろうと思う。入りますかね?と聞いてくれたので、問題はサイズで、そんなに太っていないから渡されたんだ、とあとで思う。

 

 大きいベッドが占めているスペース。そのすみに、カーテンで仕切られて、窓が少しあいていて、微妙に明るくなっているが、向こうは壁のようになっている場所。作家に、上のTシャツも代えていいですか?といったことを聞いて、さらにパンツも脱いで、わたされた小さくてかわいい女性用の下着をつける。ちょっときついが思ったよりも普通にはける。ズボンをはいて、Tシャツも着替えて、外へ出る。

 

 脱いだ下着を、作家はガラスの台に大事そうに受けとってくれて、そこから、ベッドの上で、いっしょに洗った。なんだか、くつろいでいられたのは、作家の雰囲気と丁寧さのおかげもあるだろうし、ところどころ、こうしてください、といわれ、自分の下着を洗ったり、裏返しにして、ここと、あと局部の裏も汗をかいているので、すこし丁寧に洗ってください、みたいな事を言われると、やっぱり少し恥ずかしく、なんだかあやまったり、他のまだ干されている男女の下着や、自分が渡された下着も含めて、自分が今洗っているものと比べると、新しく、しかもかっこよかったり、かわいかったりしたので、自分の持ってきた下着が、申し訳ない気持ちにもなった。

 

 おもちをつくように、作家と一緒に下着を洗う瞬間があったり、終わってから作家名の由来をきいたり、パーフェクトラバーズのことを聞いたら、モノにあれだけのものを宿らせることを見て、今に繋がっているので、といった答えもしてくれて、それは今回の作品と直接関係なかったのに、ありがたかった。

 

 それから、敬意を表す意味もあって、正座のまま、その「新たなセックス」を終えた。やっぱり、あいさつをして、頭も下げて、その部屋をあとにした。今、事故にあって、救急車で運ばれたりしたら、変態確定だとか、平凡なことを思ったり、これは合法的な変態でもあるし、と思いながらも、午後5時半くらいにその個展をあとにした。

 

 時々、ちょっと股間がきついな、ということは何度かあったが、その間にやることがあったせいもあり、女性用の下着をはいているのを忘れたりもしたが、途中で何度かトイレに行った時に、下着の前についたリボンも出て来て、それは、周囲の視線を意識したし、見られるわけはないけど、それを見ると、何か自分の体を大事にしなきゃ、という気持ちに少しなった。

 

 午後10時頃に家に帰った。それから下着を着替えた。こういう個展を開けて、会期も無事に終わったらしいので、これをやったこと自体もすごいと思った。新鮮で貴重な体験だった。

 

 

(2019年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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