アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「多摩川アートラインプロジェクト アートラインウィーク2008」。2008.11.1~9。東急多摩川線全7駅。田園調布せせらぎ公園。他。

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多摩川アートラインプロジェクト アートラインウィーク2008」。2008.11.1~9。東急多摩川線全7駅。田園調布せせらぎ公園。他。

 

2008年11月3日。

 多摩川アートラインは、ウチから徒歩5分の最寄りの駅も多摩川線で、そのわずか全線乗っても、10分くらいの線でアートをテーマにして、作品が飾られたり、この11月の第1週には、様々なイベントが行われる。嬉しいのは、去年の作品がそのまま残されたりすることだ。

 

 鴻池朋子の作品がずっとある駅まである。黒いバックに森があって、様々な実際にいたりいなかったりする生物みたいなものが上の壁と柱をおおっている。駅に、こういう作品がずっとあるのは嬉しいし、なんだか微妙に自慢だったりもする。ただ、近所の評判はよくないみたいで、もっと可愛い絵にすればいいのに、という言葉を聞いた。最近、どうも「かわいい」への強制力がものすごく強くなりすぎているような気がする。それもひたすら柔らかい肉がいい、と似た意味での「かわいい」で、おそらく奈良美智とは違うような気もしている。

 

 それでも、今年も多摩川アートラインをやるのは嬉しくて、去年、その最初のシンポジウムみたいなものを見にいって、ビジネスのにおいが強く、あちこちで名刺交換をやっていた熱気を思い出し、本当に場違いだと思った。でも、それはたとえば金融と深く結びつくような話でもあって、もしかしたら来年からはあやういかも、と思わせるような浮ついた部分のある熱気で、それはバブルの頃にあったものと似ていたと勝手に感じていたせいかもしれなかったが、何しろ、今年もやるのは、ありがたかった。

 

 ポスターになったのは「位相—大地」関根伸夫という作品を40年ぶりに再制作する、というもの。美術館で写真だけ見たことがあった。どこかの公園の地面を茶筒のように丸く掘り、そのそばにそこの土をくりぬいたかのように、やっぱり茶筒のように土が彫刻のようにある姿で、近所でやるとなると、急に関心が高くなる。

 

 そして、多摩川劇場、というイベント。回送電車を使って、蒲田から多摩川の間にその電車の車内で、何かをやって、それを見ませんか?というものだった。その中に山下残という名前を見つけ、昔、美術手帖か何かで見て、こういう人のパフォーマンスは一度見てみたいと思っていたから、妻を誘ったら、行こうと言ってくれた。午前11時に整理券を配って、始まりは午後2時。

 

 多摩川に11時ちょうとぐらいに着いたら、もう、人がかなり100人くらいは並んでいた。同じ時間に黒田征太郎が子供達といっしょに壁に絵を描くということをやっていると聞いて、興味を持ったら、すぐそばに黒田征太郎がいた。もう70くらいのはずだけど、そして、野蛮というよりは、どこか澄んだ感じがして、それが嬉しかった。並んで、もらった。整理券。

 

 それから、せせらぎ公園で、恐竜が展示されていたり、未来の乗り物の骨組みがあったり、タイヤを使った公園があったり、その「位相—大地」もあった。ロープがはられていて、そこの警備のスタッフの人に聞いたら、この円筒形は掘ったものをそのまま抜き出したのではない、と言った。掘り出した土をワクの中に入れて、固めていった、という。考えてみれば、その方法しかない、といってもいいのに、こうしてあると、なぜか土の中からそのまま掘り出した、というように思ってしまう。自分が愚かなだけかもしれないが、実際に、この高さ3メートルくらい、直径2メートルくらいの土の固まりを見ると、見てよかった、という気持ちにもなった。

 

 多摩川のカフェで食事をして、ギリギリに蒲田に着く。3両編成のそれぞれで違うのをやるみたいだ。山下残。背中が異様な男がきた。その人ではなく、5人のダンサーが電車がスタートしたら、何も言わずに動き出した。床に寝転がったりしたし、5人が連動する動きをしたり、バラバラに見える時もあった。電車の音に反応しているのか動きに反応しているのか、どこまで決まっているのか、アドリブなのかも分からなかったが、いろいろな動きをしていて、そして、電車というのは、床がかなり動いているものなんだ、と改めて、その不安定さに気がついたりもして、多摩川までの10分が過ぎ、そして、着いてから改札の外にまで、そのパフォーマンスが続いた。それは、異様な一群だったはずだけど、すれ違う人は無関心だったか、見てはいけないという反応に見えた。

 終わってから、分かったのは、山下残は、ダンサーの中にいないこと。ダンサーは今回、オーディションで選ばれたこと。山下は、最初に見た背中の異様な男だったこと。

 何も知らずに恥ずかしいけど、自分から、こういうパフォーマンスを見たいと思ったのは、おそらく初めてだった。そして、それから、また違う駅にも行こうと思ったが、妻が疲れたということなので、帰った。

 

 

(2008年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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