アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「世界の真上で」 富井大裕。2003.11.1~15。art & river bank

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「世界の真上で」 富井大裕。2003.11.1~15。art & river bank

2003年11月1日。

           

 多摩川園、今は多摩川となった駅の近所にギャラリーが出来たのを「ブルータス」で知り、一度行ってみたいと思っていた。

 

 初めて行く。

 川沿いを歩いた。妻と一緒に歩いたら、疲れてしまったようだ。多摩川の丸子橋を左手に見て、さらに進む。

 そして、川沿いの、あんまり新しくないマンション、普通なら通りすぎそうな建物、だけど、妻が「ここじゃないの?」と言って、郵便受けを調べたら、ここだった。

 

 2階へ上がり、川沿いの細く、むきだしの通路を少し歩き、バイクショップらしきところを通り、ホントにあるのか?と思う頃に、たぶん、ほとんど一番端に入り口があった。

 

 細いすき間を入る。中は白い空間。

 そこは一間しかなかった。壁に紙の小さな額縁みたいなものがある。脚立と木のブロックを組み合わせたものがある。

 

 奥に壁があり、人がいて、でも何となく挨拶するでもなく、距離を保ちつつ、壁の絵を見る。小さな絵。ピンでとめると、それらしく見える。だけど、さっきインターネットで見た脚立の絵もあって、その感じは悪くなかった。簡単な線だけだけど、味といっていいいものだった。そこの狭いカウンターに座って、過去の作品を見る。トンチ系の小さな立体が多く、おもしろいな、と思った。

 

 そして、そこでコーヒーでも飲みたいところだったが、ビールやワインはあったが、他には水しかなく、それを200円で頼んだ。愛想がいいんだか、悪いんだか分らない女性が、それをくれた。ブルータスの説明によると、キュレーターと批評家の男女2人で始めた場所らしい。

 その2人だろう。

 でも、何だか居心地が落ち着かない。

 それでも、水を2人で飲んで座って、ファイルを見て、周りを見ると、少し落ち着いた。

 

 すると、他の作品もあるのに気がついた。入ってきた時は、ホントに目に入らなかった。それだけ緊張していたのだろう。人工芝の小さい四角に、小さな車輪がつけてあるもの。壁に小さな金属のわっかがあって、それに卓球の玉がのって、縦一列に下から天井付近まで並んでいるもの。

 少しきれいだった。と思う。

 そして、しばらくいて、帰ろうかという時に、妻が作家本人に何かを聞いていた。ファイルの経歴によると、30歳くらいのはずだったが、もっと若く見え、さわやかで、言葉もなめらかに出てきている。

 

 壁にかかった小さな額縁の正体が分った。

 薄い文庫本の、文字が印刷されているような面積の部分だけを全部、切り取っているのだった。それで、額縁みたいになっている。よく見ると、どこかで見たデザインだったのは、そのせいだった。「白夜」などの背表紙も下から覗き込むと分る。そして、その彼は、その意味のある部分を切り取って、うんぬん、とさらっとしゃべった後に、全部分ってやってるわけではないんですが⋯という言葉まで言った。

 

 屈折があればいいというものでもないけれど、どうしてアートやってるんだろう?と思わせるさわやかさと器用さは感じた。だけど、その説明を聞いて、最初はなんだ、これ?と非難めいた感想しか心に浮ばなかったのが、なるほど、と思えたから、妻が聞いてくれてよかった。

 

 帰りに出口を出て、間違ったすき間から入ったことを知った。それでも、また来ようと思った。

 

 帰りは多摩川の駅の方面へ行った。

 妻が喫茶店があると言ったので、そこに行こうと思った。カフェだった。思ったよりもカッコよかった。

 店の奥の壁が、土手によくある石垣作りのブロックをそのまま店内に取り込んでいるのかと思ったら、それは、かっこいいトイレに行った時に確かめたら、わざわざ作ったもののようだった。妻も、その後に同じようにその壁にさわっていた。

 

 デリプレート。パンかご飯に、そこにあるおかずから3種類を選べるセット。それが、約800円。それにケーキセット。700円。さらに、デリプレートには飲み物がつかないから、別にブレンドをつけて、計1800円くらい。だけど、十分にくつろげたし、そこはギャラリーのちょうど裏手だったから、ここと提携すればいいのに、という話を妻としたくらいだった。

 

 アートの近場が増えてよかった。

 また来たいと思った。それで、ここのカフェでまたコーヒーでも飲もうなどと思った。妻も、エンジョイしてくれた。晴れるはずが、曇天の日だった。妻はやや調子が悪かったそうだが、帰る頃には回復していた。帰りに、エクスクワイアを買おうとして、クロワッサンの介護のムックがよく出来ていて、買った。その中で、がんばらない介護という言葉が、このままでは返って介護者を追い詰めないか?と少し心配になった。

 また、多摩川に行こうと、は思っていた。

 

 

(2003年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

 

現代アートを殺さないために」 (河出書房新社

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