アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

須田悦弘展。2007.7。ギャラリー小柳。

2007年7月19日。

 須田の作品を見た時、視界が開けた気がした。

 物理的にというよりは、意識の中の、知らないうちにふさがっていた通路みたいなものが、サッと開き、開いたことで通じてなかったと分かるのだけれど、それで少し嬉しくなったのを憶えている。それは、もう10年近く前になるし、こういう言い方は、ある意味、ウソくさいのだけれど、ホントにそうで、だから、そのレベルの気持ちよさを、今も須田の作品を見るたびに、やっぱり求めてしまっているようだった。これを観客のワガママというのだと思う。

 

 天上のところの窓から光がさしこみ、その壁に、上から落ちて、バラバラになっていく花があった。チューリップ、それも木彫りだった。

 大きな樹木のほんの一部、根っこを少しだけ木彫りで作るだけで、その全体の大きさを想像させようとした作品。

 イスの下に、監視する役目の人が座っている下に、ホントに小さく作ってある雑草。

 でかいジェット機の彫刻が並ぶすきまに、その窓際に、とても小さく展示されている小さな植物。ぜいたくね、という他の観客の声。

 

 久しぶりに、須田の作品を見にいった。

 個展をやっていたのは知っていたけど、四国の丸亀だった。銀座の小柳ギャラリー。以前、来たことはあった。ビルの場所は同じでも、大通りに面したところは、違うショップになっていた。その裏手の、繁華街の妙なにおいが少し漂うような場所にある裏手のエスカレーターに乗って8階のギャラリーがあり、ここへは初めてだった。ものすごく久しぶりだったんだ、と思うが、記憶の中ではそれほどの遠さはなかった。

 

 入ると、かなり広いスペースだった。長い机があって、女性が座っていて、その前にしゃがみこんでいる若い女性の2人づれ、一人はメガネをかけている。ああ、あの場所に雑草があるんだな、と思う自分がいる。その通りに…そういう風に思うのは、自分の妙な慣れがあるようで気持ちが悪いのだけど、でも、やっぱりしゃがんで見て、よく見ると、完成度が上がっているような気もしてくる。そして、そういうものを見る気持ちよさ、というものもあって、だから、完成度を上げていくという作り手側の気持ちよさも想像できるようにも思う。

 

 壁にある大きめの立派といっていい花の作品もスゴくよく出来ているし、柱のせいで少し出っ張った感じになっている壁際に咲いて(?)いる小さなスミレ…個人的にはこれが一番好きだった…も、よく出来ていると、妻はなんだかウットリとして見ていた。このスミレを撮影してあったのが「ぴあ」に載っていた。その撮り方が、写真は小さいけど、ビルの床のザラザラした感じまで映りこんでいて、だから須田の作品の見られ方の定着、みたいなことも思った。

 

 でも、私は、視界が晴れた気はしなかった。

 それは、観客のぜいたくさ、みたいなものだと思うけれど…作品を買いもしないのに…原美術館で見た「てっせん」…常設作品になっている「この水は飲めません」。おそらく、そこの壁をこわした時に出てきた、そんな表示を生かして、それを生かしたことが観客にもすぐに分かって、だから、よけいにそこにふさわしい作品になっている、それでいて無難とは少し違っていて、さらには、作品の完成度という技術まで見せてくれる、というものだったのに、今回は、私が知らないだけかもしれないが、そこにふさわしいという感じがあまりしなかった。

 

 私は基本的には無知で、金銭的に豊かなお客さんも多そうで、そういう人に見せるショーウインドー的な役割が、今回の個展には大きいのだろうけど、でも、銀座だったら、柳とか、そういうような作品も無理とは分かりつつ見たかった、と思う。ただ、並んでいる作品の中で、私が知らないだけで、そういう作品はあって、それを知ったら、また勝手なことだけど、自分の見方が変わってしまう、そんな不安定な感想でしかないのだけど…。

 

 森ビル…六本木ヒルズで、グループ展で、壁に花が咲いていて、でも、その印象は薄いままで、それが、その前に見た須田の作品だと思い出した。こういう要求ばかりを言う観客も少なくないだろうから、ホントに人目にさらされる、それも一定以上に多くなってしまった人は、とても、やっかいな状況なのかもしれない、と自分の気持ちを考えて、そう思った。

 

 でも、技術的にうまくなっていく、というのはとんでもない武器であるのは間違いなくて、技術がもたらす想像以上のたくさんのもの、みたいな事も思って、ああ、やっぱりベースが健全な人なのかもしれない、などとも思った。

 

(2007年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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