アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

ミクロ・イヴェント 谷内恒子展。2014.7.18~9.21。メゾンエルメス フォーラム。

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ミクロ・イヴェント 谷内恒子展。2014.7.18~9.21。メゾンエルメス フォーラム。

2014年9月21日。

 思っていたパフオーマンスと違った。

 

 自分の知識の限界はあるにしても、パフォーマンスといえば、妙に間をゆっくりと開けた動きが続いて、どちらかといえばナルシスティックなにおいが強く、どちらかといえば、恥ずかしいというか苦手だったから、そのパフォーマンスが夕方で、妻と一緒に行けないので、と思っているうちに時間は過ぎ、最終日になっていた。

 

 仕事の帰りにぎりぎり行ける時刻だった。銀座で降りて、ほぼ縁がないエルメスの建物の1階を通って、すごく隅々までぱきんとキレイな空間を抜けて、最初から大勢の人に来てもらおうと思っていないような小さいエレベーターに乗ってから8階に着く。

 

 壁にパフォーマンスの様子が映し出されていた。今日が最終日で、もうイヴェントは終っているから、もう行なわれることがない舞台があって、そこで、行なわれたことの記録の映像。本当に、近所にいるおばさんのような人。それも化粧もほとんどしていなくて、その上で、黒い下着が見えるような姿も含めて、いろいろな姿になって、ボクシングをしたりラジオ体操をしたり、という動作をしている。周りで見ている観客が笑っているのが、ちょっとバカにした感じにも見えて、それは仕方が無いのかもしれないが、申し訳ないけど、卑しくも見えてしまった。自分も、そんな風に笑ってしまうかもしれない。だから、観客がそう見えるのは、自分の気持ちの反映に過ぎないのかもしれない。

 

 だけど、少し見ていて感じるのは、この谷内は、1人で動作を行なっているような淡々とした気配だった。自意識過剰で、よく見せようとしたり、逆に悪く見せようとしたり、ということに、人前でやったらどちらかに傾きがちだと思えるのに、それがこんなに普通に出来ることがすごいから、見ている方は逆に鏡のように自分のことを考えてしまうのではないか、などとも思ったが、下着が、そして、明らかに老いを感じさせる手足を見せながらのウエイトレスの姿では、コーヒーを周りにいる観客に尋ねて運んでいたから、コミュニケーションもとったりしているし、それも自然に見えた。

 

 他には結婚式を希望者とたくさんあげるというパフォーマンス。それは、ある程度、この場所にバージンロード的なものを作り、谷内はきちんとウエディングドレスを着ているから、もし自分がそれをやったら、と思うとおそらくいろいろな抵抗感が出てくるだろうな、みたいな気持ちになり、これは大胆なことかもしれない、と思う。

 

 スタッフに聞いたら、感じよく答えてくれた。2ヶ月の間、毎日パフォーマンスをする、ということだったけど、何日かは休んだらしい。それも、普段はフランス在住なので日本の夏の暑さで体調を崩した、という話を聞いて、それもそうかも、と思ったが、2ヶ月間、休みなく毎日やろうとしたことがすごいと思った。かなりの年齢のはずだが、それでもこれだけのことを(とはいっても、この人は20年前からヨーロッパでずっとパフォーマンスを続けて来ているのだから、その蓄積が可能にしていることなのは間違いないが、ただ、1日2時間くらいのパフォーマンスだから、肉体的にすごいと思う)やったのはやっぱり偉業ではないか、と思い、ここのギャラリーはウソみたいにきれいな空間で、お金持ち空間なのに、こういう泥臭さを感じるようなことをやったりするのが、そのチョイスがなんだかすごいと思ったりもする。

 

 このパフォーマンスは、見ている側の偏見も含めて、分からせてくれる作品だと思った。

 

 

(2014年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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「ミクロ・イヴェント」谷内恒子展 

https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/140718/