洗足池
暑さは続いている。
体力不足の私と妻にとっては、梅屋敷からの移動も問題だった。
梅屋敷から蒲田駅までは歩いて20分ほど。最初は大丈夫かとも思っていたが、ここまでも、色々と見て回ったせいもあって、バスを利用することにして、それを今日の運営をしているスタッフに伝えて、そして、歩き始め、なんだか焦ってバスに乗り、駅から電車に乗って、洗足池の駅に着く。
池が駅のそばにあって、そこにはスワン型のボートもあって、少しリゾートの空気もあって、もしかしたら初めて降りた駅かもしれない。だけど、他の徒歩で移動のメインの団体とはぐれたのでは、と焦ったり、スタッフの携帯に駅にいることを告げたり、バタバタしていたら、妻の言った通り、その集団は私たちよりも2本ほど遅い電車で現れた。
ホッとした。
この駅にはギャラリーが二つある。
知らなかった。
最初は、「空豆」。
美術館の学芸員の方が、自宅をギャラリーにもするつもりで建設した家。確かに周囲から見たら、異質感がある建物で、魅力的だった。
3階に上がる。
菅木志雄の作品がある。
「もの派」を代表する一人。木材などを、あまり加工せずに、作品としている。
最初は、素っ気なさに、拒否されているような感じもしていたが、そのうちに、「もの派」の作家の作品が広い場所などに展示されているのを見たりして、潔さのようなものを感じ、考え抜いたあとの選択なのではないか、と感じるようになると、カッコよくも思えてきた。
床に置いてある。
かなり昔の作品らしいが、古さも感じない。
壁にも作品が展示されていて、最小限の介入によって作品になっている。
とても清潔感があって、作品を生かすための空間になっているとも思い、個人で、こうした場所を運営しているのをすごいと思い、同時に、今日は恥ずかしいことばかりだけど、本当に、ここの存在を知らなかった。
作品も、空間も気持ちが良かった。
こうしたアートに情熱を持った個人のおかげで、ようやく文化の底支えがされているのだとは思った。
次は、また駅に向かって、さらに通り過ぎて、「ギャラリー 古今」に到着する。
病院でもある場所で以前から気になっていたけれど、初めて入った。
そこには、昔の作品として李朝白磁と、現代としてミズテツオの平面作品が隣り合わせになり、それは、かなりしっくりときていて、時間の差のようなものもあまり感じられず、そこに違う種類の作品としての広がりのようなものがあった。
さらに階上には、半分屋外の場所に、ネオンや石などを使った作品もあり、なんだか、とてもぜいたくなことだと思った。茶室を模した場所には、古い仏像と、菅木志雄の作品も並んでいて、お互いが刺激し合いながらも、調和するようで、すごくかっこいい空間になっていた。
そこから、次は、また池上線に乗る。
午後5時をすぎていた。
アトリエ
次は、また電車に乗って、いくつかの駅で降りる。
そこから、少し歩く。
今回の企画の小さい看板があるから、わかるけれど、でも、それがなければ、本当にごく普通の一軒家だった。
そこが、中島崇のアトリエで、今回の企画・運営に関わっているらしく、だから、今日のツアーも、こうした人たちの尽力のおかげで、実現したかと思うと、改めてありがたい。
大田区の空き家の施策によって、かなり格安でこの場所にいて、だから、その分を製作の時間に回せるといった言い方をしていて、やっぱりつくる人なんだと思ったり、もしかしたら、作品を見ているかもしれないのに、こうした現代美術家の人が、地元に住みながら作品をつくり続けていることを知らなかった。
だけど、住居兼アトリエに、かなりの人数で訪れて、それで話をして、そこかしこに制作中のものがあったりして、こういう場所から作品は生まれてくるけれど、当然だけど、生活の中でつくっている感じは、伝わってきた。
今日のガイドもしてくれる青山悟氏とも仲がいいようなので、いろいろな話を聞けて、知人宅に訪れたような気持ちにもなれた。
(中島崇 サイト)
午後6時をすぎていた。
ここから、もう一ヶ所、作家のアトリエに行って、今日のツアーは終了だけど、移動は徒歩であと20分弱になる。
もう、私と妻の体力は限界のようだったので、残念だけど、ここでリタイアをすることにした。元気な人は、ツアー後に、飲み会をしてビールを飲むようなので、それも楽しそうだけど、これ以上、無理をすると、これから先にかなり影響が出そうだった。
そのことをスタッフに告げ、御礼もいい、今日のガイドをしてもらった青山氏にも御礼を伝えた。
電車に乗って、途中で弁当を買って、家に帰って、お風呂も沸かして入浴もした。
やっぱり疲れはあったけれど、こんなに長い時間、アートに触れたり、アーティストの言葉を聞くことは、とてもまれなことだったし、妻と二人で、楽しかった、という話を、それから2〜3日していた。
アートは、自分たちにとって必要なことだった。作品を製作しているアーティストは、世の中には欠かせない存在だとも思った。
(「大田区アートスポット巡り」)
https://www.ota-bunka.or.jp/recruit/recruit01/aroundinotaartspot
(『現代美術史』 山本浩貴)