アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

『会田誠 《混浴図》への道』。2024.4.20~5.19。Gallery & Restaurant 舞台裏

会田誠 《混浴図》への道』。2024.4.20~5.19。
Gallery & Restaurant 舞台裏

 

会田誠 《混浴図》への道』

https://artsticker.app/events/29933

 

2024年5月11日。

 会田誠が、麻布台ヒルズの敷地内と言える場所で展覧会をやると知って、ちょっと意外だったし、麻布台ヒルズという場所にビビりはあったものの、それでも行こうと思ったのは、神谷町という駅から近いからだった。

 神谷町駅の5番出口。駅直結。徒歩1分。

 それはとてもありがたい条件で、だから神谷町の駅を降りて、5番出口を目指して歩いて、途中ですでに麻布台ヒルズの内部に入りつつあるように、空間が広くなって、ハイブランドの広告が展開されて雰囲気が変わったので、やっぱり気持ちがひけて、だけど、駅直結なのに道を見失って、エスカレーターに乗って、外へ出たら、異世界が広がっていた。

 完全に迷って、また下へ降りたら、どこへも通じていないような空間に見えて、さらに降りて、最初に案内所みたいなものがあったのを思い出し、そこへ行って、そこからやり直そうと思ったら、急にギャラリーを見つけた。

 

https://artsticker.app/events/29933

会田誠 《混浴図》への道)。

 

 そのままのタイトルの展示で、最近では珍しく撮影も禁止の場所だった。

 

ご来場のお客様へお願い

本展覧会は写真撮影をご遠慮いただいております。

この展覧会には、特定の人物を引用した図像、人によっては不快に思う表現、ヌードなど性的表現を含む作品も含まれています。いずれも現代社会の多様な側面を反映したものであり、作者がこのような内容を賛美しているわけではありませんが、これらの作品を不快に感じる方は、入場に際して事前にご了承いただきますようお願い致します。入場に際し不安のある方は、スタッフにお声がけください。

                (ギャラリーでの注意書き)

 

 ギャラリーの一番奥には、これから取り組む予定の対策の設計図のようなものがあった。それによると、縦が2メートルで、横が10メートルくらいの大きな絵画になるはずで、テーマは混浴。現実にはないほどの大きな温泉で、混浴で、そこには人間だけではなく、架空の存在や、機械やキャラクターなどが一緒にお湯に浸かっている、という作品になる予定のようだった。

 そこに至るまでの過程、というか、おそらくは出発に近い状況で、その温泉に入る人やモノたちを描いて、今回はその一部分を展示している、ということのようだった。

 メインビジュアルは、どうやら親鸞で、服を着たまま温泉の湯煙で覆われている。

 他にも、実在の人物や、架空のキャラクターや、無機物まで温泉に入っている。

 それが何枚かの作品として展示されている。

 

https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/28826

(「美術手帖」サイト)

 

 作品に描かれるのは広大な露天風呂。そこに、会田オリジナルのキャラクターも含め、日本的な記号としての手拭いや日本酒、猿やカッパ、あるいは古典絵画や報道写真資料からの引用、無機物の擬人化など、じつに様々(混合)だ。会田はその存在の善悪を問わず、森羅万象の多種多様な存在を、親鸞を中心に「直感的に」かき集めたという。

 会田はこう語る。「混浴露天風呂という空間は他者に対して寛容であり、多様性が共存する理想の場所。しかし現実世界は不寛容さが目立つばかりでそうはならない。絵画の中くらいは、そうした理想の世界をつくってみたいと考えた」。

                  (「美術手帖」より)

 

 そう言われてみれば、露天混浴風呂は、他にないような空間かもしれず、そういうテーマは取り上げられそうで取り上げにくいのは、温泉のイメージや、混浴の印象があまりにもアートから遠かったせいかもしれない。

 ただ、会田誠自身が久しぶりに取り組んだ絵画作品は、柔らかい印象で、手作業の感じもしたのは、ここのところ生成AIの描く作品などにそれほど意識しなくても接しているから、ほとんど無意識のうちに自分の感覚の中で比較してしまっているのかもしれない。

 そのまだ小さめの絵画の一枚一枚には、あり得ないような組み合わせで、風呂に浸かっている場合もあって、そう考えると、撮影を遠慮してもらったり、気分が悪くなったら、といった配慮も必要になるのかもしれないが、それでも、これまでの会田誠の作品と比べたら、表現としては穏やかで、でも、そんなことの色々が今の時代なのかもしれない、とも思った。

 

 作品を見ていると、改めて絵画を描くというのは、とても地道な作業だと改めて感じた。それは、これから完成までにとんでもない手間がかかるのは容易に想像もできるのだけど、それでも、そうした過程を想像すること自体も、なぜか、ちょっとうれしい気持ちにもなった。

 人間は、時々、人間の作業を見たくなるのかもしれない。

 

 会場のハンドアウトにも、こんな文章があった。

『今回の新作が展示される「Gallrey &Restauranto舞台裏」は、モニュメンタル巨大ファザーどを備え、最先端の技術を駆使したデジタルアート・ミュージアムが入居する麻布台ヒルズの地下1階に位置している。麻布台での展示にあたり、会田は作者コメントの中で自身の新作絵画を自嘲的に「光らないし動かない」「時代遅れな美術」と称した。大規模再開発のアイコン的なビル内部に位置しつつも、表通りからは見えない地下のギャラリー、あくまで「舞台裏」でこの連作を公開する試みは、都市における公共空間に対してクリティカルな問いを投げかけているといえよう』

            「齋木優城(本展キュレーター)より」。

 

 そこまでは思わなかったかもしれないが、この最新の空間で絵画を見つけたときは、不思議な安心感もあったし、何より会田誠の個展が開催されなければ、個人的には麻布台ヒルズを見る機会は、確実にもっと遅くなったのは間違いなかった。
 
 
 
(『性と芸術』 会田誠