アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「村上隆の五百羅漢図展」。2015.10.31-2016.3.6 。森美術館。

f:id:artaudience:20200510181550j:plain

村上隆の五百羅漢図展」2015.1031-2016.3.6

 

2016年1月4日。

 東日本大震災のあと、すぐに動きを始めたアーティストの一人に村上隆がいた。そして、その流れの中の一つとして、大量のスタッフを動員して作り上げた作品が「五百羅漢図」だった。それが2012年には、カタールのドーハで展示されて、それを見に行くツアーまであって、出来たら行きたい気持ちもあったけれど、時間的にも金銭的にも、とても行くことはできなかった。

 

 この頃の村上本人のツイッターなどでは、日本の美術業界が嫌い、自分は嫌われている、といったことをくり返し繰り返し書いていたから、その「五百羅漢図」を日本で見るのは無理だろうなと思っていて、勝手に残念だった。

 それでも、いつかやるかもしれないなどと思い、2001年に村上の個展を行った東京都現代美術館のアンケートに「ドーハでやった展覧会を、ここでやってほしい」といったことを書いたりもしたが、やっぱり無理だろうと思っていた。

 

 それが、五百羅漢図が見ることが出来る展覧会が、急に開催が決まったように思え、うれしかったが、個人的な事情でなかなか行けず、2016年が明けてから、やっと行けるようになった。

 自分としては、六本木は、比較的近い。森美術館は、駅からも近い有り難い立地で、駅を降りて、歩いていると、都会に来た感じがして、森美術館の入り口付近に来たら、待ち時間5分という表示が出ていた。平日だから空いていると思ったけど、チケット売り場は少し並んだ。そこにいるだけで、いろいろな国から来ている人がいるのは分った。

 

 エレベーターはあっという間に52階に着く。そこから美術館に向かう。

 入り口には、村上隆の立体像があって、それも顔がわれているような像で、その像は時々、お経を唱えて、目がぐるぐる回る。やっぱりインパクトがあった。

 最初の部屋は最新作が並んでいて、それは、相変わらずものすごくキレイな完成度が高い質感だった。それでも、少し自虐的な感じがあるというか、ちょっと痛々しい印象が伝わってきたようにも思えた。

 

 いろいろ作品はあったが、やっぱり「五百羅漢図」がすごかった。最初は、思ったよりも小さいと思ったら、それは全体の半分だった。(その半分が、また2つに分かれている)

 

「白虎」。全体が赤い。大小の(この言い方も粗いけど)羅漢が、ほぼ全員こちらを向いている。しっかりと足がついている。こちらを見て、やっぱり祈りをささげている。鎮魂の絵なんだ、みたいな事を感じて、ちょっとグッときた。向かいには、「青龍」。どの部分も、スキがない。見ていると、どの羅漢も、違う人に見える。

 

 途中の部屋に創作過程が分るいろいろなものまで展示されている。「村上様、ご指示」。という文字。「指示書通りにやれ。ぼけ」といった言葉。それぞれの羅漢のことを調べ上げるリサーチのチームまで組まれていて、いろいろな情報を共有する勉強会も開かれて、ものすごい大勢の人間を一つの目標に向けて動かす、というすごさが、本当にほんの少しだけ伝わって来たようで、そして、そこの部屋の向こうに、あと2つの作品。

 

 「朱雀」。「玄武」。

 どちらも、大きい。その前に見た「白虎」と「青龍」の4つ部分で100メートルあるらしい。

 

 最後の部屋には、また他の作品も並んでいた。

「知りたくなかったのだけど魂は死んだあとでも生き続けるらしい。ただ、何万年も何億年も劣化しないとは言えないだろうに」といったタイトルのパッと見にはただ黒い、少しだけよく見ると、画面がドクロでうめつくされた作品は、重くて、少し怖かった。

 最後に「馬鹿」という作品があって、その画面には、五百羅漢の制作中の、美大生への文句や、広く日本の美術業界への悪口らしきものも書いてあったが、最後は自分をも「馬鹿」と言っている作品だったらしい。真ん中に自画像があった。

 

 もう一度、見た。

 あちこち、どこを見ていても、細部まで仕上げが完璧で、それぞれの羅漢の表情が確かに違っていて、見飽きないし、しばらく見ていても、全体像がつかめるまでは、かなりの時間がかかるのは、分かるし、今回も全部を見られた感じはしなかったが、何しろ圧倒的な印象はあった。

 

 来てよかった。

 新年最初に見て、こんな作品を実現させて形にする人がいることを、改めて体で分からされた気持ちになり、背筋が伸びるというか、襟を正す、といった気持ちになれた。

 

 

村上隆の五百羅漢図展」 森美術館ホームページ

https://www.mori.art.museum/contents/tm500/

 

 

 

(2016年当時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。