アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「横尾忠則作 暗夜行路」。2001.10.20~2002.1.14。原美術館。

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横尾忠則作 暗夜行路」。2001.10.20~2002.1.14。

 

2002年1月10日。

   カゼとか、調子が悪いとか、そんなことでずっとどこも行けなかった。

 2ヶ月ぶりにアートを見に行ける。

 このところ、ただ、母が入院する病院へ通い続ける日々だった。

 

 友人も誘って、品川で待ち合わせ。

 バスで行くと、わずか1停留所。でもクルマしか通れないような道路。

 久しぶりの原美術館。最初に食事。ランチタイムで、自分はリゾット。妻はスパゲッティのランチ。友人は、からすみのパスタ。食後にはイメージケーキ。Y字路の形のチョコレートケーキ。

 

 展覧会は、Y字路をテーマにした絵が並ぶ。

 どれもなつかしいような、田舎のどこへ続くか分からないようなY字路を思い出したりするが、どれもおもしろい、と思った。

 部屋を暗くしてあって、一点しかない絵は一人で見たかったし、去年の9月11日のテロの日にたまたま描いていたという絵は、やはり、そういう気配があった。

 涅槃の像が、いつものレノーの白いタイルの部屋に並んでいる。何だか気持ちいい。階段には滝のポストカードが並んでいる。

 

 いつも、その時の自分の興味があるものに、ウソがないんだろう、と思った。

 そして、今回のY字路も、多くの人の共感を得るような気がする。自分がそうだったように、懐かしさと、先が分からないような、それでいてどこまでも行ってみたいような気持ち、をリアルに思い出させる力があると感じる。

 

 見た人がそれぞれ、いろいろな感想を言いたくなるような作品に思えた。以前、鎌倉で個展を見た時よりも、もっと自分に引き付けて見る事ができた。その時は、自分よりも上の世代、それもある特定の時代の印象を色濃く感じさせていたのに、でも、今回の作品はもっと今の時代の感じがする。たぶん、その時の自分の興味に、とても正直に沿おうとすることで、それほど意識していないのに、時代の色を出せるのかもしれない。それは、自分のスタイルを決めて、ある意味では同じようにやっていくのとは違う姿勢だろうから、困難もあるし、難しさもあるけれど、すごいと思えるし、だから現役でいられるのだろう。

 

 さらに、須田悦弘の作品が常設になっていた。

 2階の階段を登って、すぐ左。

 「この水は飲めません」というタイトル。

 狭く、薄暗く、湿っぽく、コンクリートの廃虚のような場所。奥に広がる細長い空間。下手をすると見落としてしまいそうな場所。

 そこに、たぶん最初からあった「この水は飲めません」という英文字。そこにある、今は使われていないが、壁の向こうに、ずっとあったであろう水道関係の配管。その空間にありそうな、てっせんの花。その花を木彫りで作ってある。その空間の記憶といったものまで、再現しているような花。嫌味ではない鋭さ、そしてその作品の完成度が見るほどに伝わってきて、さらに感心までしてしまう。

 

 原美術館は、このくらいの広さだと、何人かで来ても、自分で勝手に見て回ってもはぐれることはないのでそういう意味でも気が楽だった。

 建物を出ようとする時に、森村泰昌が美術館に入っていくのが見えた。

 2002年。最初。

これだけのたくさんの絵を見たのは、久しぶりだった。

 

(2002年の時の記録です。多少の加筆・訂正をしています)。

 

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