アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「影に吠える」。伊藤雅恵。2012.6.16~7.14。AI KOWADA GALLERY。

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「影に吠える」。伊藤雅恵。2012.6.16~7.14。

AI KOWADA GALLERY。

 

2012年7月7日。

 もう5年くらい前になってしまうけれど、最初に美大の中にあるギャラリーみたいなところに行って、作品を見た。まだ卒業したばかりの人で、もう何カ所かのギャラリーから引き合いが来ているといわれるような位置にいる画家を初めて見た。それが伊藤雅恵だった。若いというだけでなく、作品にも、本人にも光が宿って、すごく輝いているような印象が、そこにあった。

 

 そのあと、渋谷のギャラリーで見た時は、すでにお客の期待に応え過ぎているような気がして、勝手に興味を失いかけ、その後に、そこを突破したような絵を銀座で見て、すごいと思い、VOCA展ではエネルギー量があがったような新鮮な絵を展示して、賞をとったようにも見えた。そのあと、都庁の壁に飾られている作品を見たのが、2008年だった。

 

 そこまで、初めて見てから1年くらいしかたっていなくて、まだ新人といえるのに、それだけ作品を発表する機会が多いのは稀なことだろうし、それだけ作品を創り続けているのも凄いことだと思う。

 

 それにも関わらず、観客の勝手な見方に過ぎないのだけど、再び、自分の過去作を模倣するようなマンネリに陥っているような感じに思えた。これから、どうなるんだろう?と思いながらも、美大や銀座で見た時のキラキラした感じは忘れづらく、時々、ホームページを見ていたが、いつの間にか更新もなくなったし、自分が知らないだけだったのかもしれないが、新しく展示をする、という情報も見なくなったし、描けなくなってしまったのかな、などと思って、勝手な事だけど、それを思ったことも忘れかけていた。

 

 ハガキが来た。展覧会。グループ展のようなものを開催する、というDMだった。その送られてきたハガキのビジュアルは、伊藤雅恵の新作だった。花畑が美しく爆発してる絵というのが5年前の印象だったが、そして、その後に勝手に行き詰まったように見ていたが、調べたら、すでに去年から活動を再開していたようだった。ただ、おそらくは2年くらいは発表していないはずだったし、もしかしたら停滞していたようなこともあったのかもしれない。だけど、ハガキの印刷した絵を見ただけだけど、そういう事を思わせない、何かを突き抜けた気配を感じた。爆発力みたいなものが増している。ある意味では変らないけど、かなり変化していて、見に行きたいと思った。

 

 地下鉄を乗り継いで、倉庫のビルのギャラリーに着く。6階に、伊藤雅恵の絵がある。4人のグループ展。実物の方が、当り前だけど、ハガキよりよかった。

 

 私は、5年くらい前の作品より、今の方が好きだと思えた。人物も描きこまれていることが、実際に見るとよく分かった。そこから、何かがすごいスピードで爆発するように飛び出している。形や色を構成している筆のあとが残っていて、それがスピードを感じさせるのは前と同じだったが、そのスピードに加えて、重さがはるかに増している。変な言い方をすれば、破壊力が増大していて、何年間か、苦しんだのかもしれないが、人は自分で、抜けて行くんだ、とも思った。

 

 この展覧会のことを書いた文章には「伊藤雅恵はこれまでの抽象性をひそめ、自身や近しい友人をモデルに、何かに追われているような鬼気迫る形相や、大地を踏みしめ颯爽と歩く凛とした女の子が見せる、生命力溢れる一瞬のきらめきを、ほとばしるような筆致と極色彩で画面にとどめた。」(脇屋 佐起子・アートライター)とあった。

 

 たぶん、また、変って行くんだろう。そうやって、変化して、成長していく、というのは見ていて、どこか感動するし、気持ちのいいものだと、思った。伊藤雅恵は30歳になるらしい。この年齢でまた変われる、というのはやっぱり凄いことだと改めて思う。

 見てよかった。

 またこれからも見たい。

 

 

(2012年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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