2014年3月9日。
最初に、部屋の中を小さい飛行機が飛んで行く映像作品を見た時に、すごく面白いと思ったのは、それが幻想とか、妄想とか、夢とか、そんな境目を描いているように思えたせいもあるし、こういう事があると視覚的に面白いというような単純な刺激もあった。それから何回か、この人の作品を見ているけど、その飛行機のものを超えるような印象は少ない。でも微妙なところを狙うというか、気持ちがどこか少し違うところへ意識がいくような場所を考えているのかも、というような印象はある。日常性ということと、非日常性という境目やすきま。
今回の作品も、壁の配置が変わるだけで、これだけ印象が違うんだ、というような入り口で、小さな日常的なものの立体やドローイングが壁に並んでいて、それをたどっていくと、少しずつ暗くなって、少しずつ違う場所に進む感じはしてきた。
大きいスクリーンに映像が2つ。同じ場所に少し違う出来事が起こっている。モノトーンのきれいな映像で、日常ならありえないのに、もしかしたら起こるかもしれないようなことが起こっていて、思い付きそうで、こうやって形にされると不思議な気持ちになるようなことが、普段とは違って、もっとゆっくりした時間が流れている中で、変わって行く。
壁の小さい穴に糸なのか、髪の毛なのか、レコードが線になっているのか、分からないけど、それが何カ所かの穴に吸い込まれて行く感じとか。男性が一人ずっといて、意味ありげな動きや表情をずっとしているが、時間の流れ方は遅いし、音楽だけが流れて行く。能楽みたいだった。違う時間の流れ方をやや強引に設定しているような。
それから、いくつもの映像と、その映像の写し方のいろいろなパターンがあって、そこにいる間は確かに違う世界というか、今とは違う微妙な場所にいるような気持ちになっていて、だから変な疲れ方まで、確かにした。「領域」をテーマにして、というような話がリーフレットにも書いてあって、そんな気も確かにするし、確かに他では見られないような映像をずっと見た。
(2014年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。