アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

Chim↑Pom 「日本のアートは」。2018.7.6~7.22。NADiff/a/p/a/r/t(恵比寿)。

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Chim↑Pom 「日本のアートは」。2018.7.6~7.22。NADiff/a/p/a/r/t(恵比寿)。

2018年7月11日。

 表参道にあったナディフが移転をして、恵比寿に来た、という話を知ったのは、つい最近のような気がしていたが、今年の7月7日で10周年ということらしく、もうそんなに時間がたったのかと思って、そういえば、またチンポムが展覧会をやるということで、思い出すのがひたすら水浸しになっていたギャラリーで、そこは小便をしたり、壁に落書きをしたり、酒を飲んだり、いわゆる「リア充の大騒ぎの後」という感じを作品にしていて、その時は「日本のアートは10年遅れている」といった言葉があった。

 

 そういえば、遅れている、という言葉はあきれるほど、そんなに関心がなくても、おそらくは、どんなジャンルでも何百回と聞いた記憶もあるけれど、その言葉は、具体的な何かを指す、というのではなく、その言葉を発した人間が、自分は先を行っているということをアピール、多くの場合はそれほど根拠のない自信でもあって、そのことを含めてのタイトルでもあったのだろうけど、何しろ、悪ふざけから始まっているようなチームだとも思っている。だから、徹底してきた時間によって、凄みも備わってきていると感じる。

 

 そのこともあって、広島の時の対応に関しては、観客として納得がいかない部分があるのだけど、でも、2年前の歌舞伎町の、これから壊すビルを使って、大きな穴をあけたりして、観客に誓約書みたいなものを書かせて展覧会を可能にした、その行動力と、企画力と、作品は、すごかった。

 

 歌舞伎町は、最初は、今の感じとはまったく違って、もっと老若男女が来るような娯楽街を目指していたんだ、ということや、そのことを目指した、もしかしたら今も目指し続けている団体が入っていた古いビルを使って、そして、その痕跡も使ったことに、なんだかすごいと思えていて、そのあとも、別の場所で、そのビルの壊したものも利用して、ギャラリーにマンホールまで作ってしまった展覧会もすごかった。その時の観客は、パリピまでいかないまでも、いつもの展覧会などで見かけるのとは違う人たちがたくさんいた。

 

 土曜日には行こうと思って行けなかったので、ボランティアの帰りに、それもカオスラウンジのあとに、歩く。恵比寿から、どうやって行けばいいのか分からなくて、というよりは、一度は来たはずなのに、まったく忘れていて、最初はまったく逆に行こうとしてしまって、そこで地名に南が入っていないことに気付き、歩き、川を目印にして、進み、矢印のある電信柱を見つけて、やっと記憶の中の光景とはっきりとつながった。恵比寿とは思えないような、どんよりとした色の古いアパートはまだあって、そのとなりにイメージよりも小さいビルがあった。

 

 1階にショップ。あとから来るカップルにドアを開けておこうとも思ったが、距離が遠いのと、モデルみたいな人なので、気後れしてやめる。中へ入ると、アートのものがいっぱいあって、部屋が広くて、お金があったら、欲しいものばかり。ということは今は買えないものばかり。

 

 奥にベニアで囲まれた個室みたいな箱。どこから開けたらいいか分からなくて、一周したら、最初の正面のドアがあけられた。中には和式の便器。それも、流れるところに穴があき、そのまま下に落ちている。使用可能らしいが、使う勇気はない。10年前に小便小僧もあったけど、今回は、ここでの小便を階下のギャラリーに落とすんだ、というのは分かった。うまいといえば、うまいし、筋が通っている。

 

 回り階段を降りて、地下へ行くと、また水浸しのギャラリーの中に板を使った、橋みたいなものがあって、そこを通る。さっきのカップルもいる。奥まで行って、壁を見る。

 

 チンポムと大きい字。落書きのような作品。もう一度、1階へ戻る。このギャラリーの作業の様子が映像で分かる。ホワイトキューブだったギャラリーの壁をはがし、こわし、下のコンクリートをむきだしにしている。そこにある落書きみたいなもの。それは10年前に、彼らが描いたものだと分かって、ああ、そうか、10年前のものが、ここにずっとあって、そうすると、ここで、ここまで開いてきた展覧会のすべては、この落書きの上で続けられて来たんだ、と思った。そういえば、10年前に確かに見た展覧会で、水浸ししか覚えていないけど、その時の落書きも確かに見ていて、それと同じものが同じようにそこにあり続けていた、ということが、不思議な気持ちになった。

 

 そして、本当に上手く筋を通している、という気持ちと、10年前は、この場所で、また展覧会をやれるようなアーティストとして、10年後もいるかどうか分からなかったから、そういう意味でも、チンポムが勝った、というような展覧会でもあって、なんだか見事だと思った。

 

 

(2018年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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